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今春のビデオカメラに見る3つのトレンド麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2009年03月11日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

――それでは、市場へ登場している代表的なHDビデオカメラについてコメントをお願いします。まずはソニーの「HDR-XR520V」(レビュー)です。

麻倉氏: これほどの製品はなかなか登場するモノではありません。これはビデオカメラに限った話ではありませんが、フォーマットというものは定着しないとその力を最大限に引き出す製品は作り出すこと自体が難しいのです。本製品はAVCHDというフォーマットの成熟を始め、撮像素子やレンズ、制御するソフトまで関連する技術要素まで含めたさまざまな要素が素晴らしいタイミングで出会ったことで成立した製品といえるでしょう。

photo ソニー「HDR-XR520V」

 裏面照射型CMOSによって暗部のS/Nが優れていることはすでに言及していますが、やはりビデオカメラにとって大切なのは撮像素子とレンズであって、その2つの性能によって画質が左右されてしまうことを改めて思い知らされました。

 増感処理が必要ないということはノイズを取り除く必要もないわけで、そのためノイズリダクションの悪影響を受けない、自然な、人間の目で見たようなイメージに近い暗部映像を得ることができます。この部分が圧倒的な映像差になっているのですね。ノイズが少ないだけではなく、暗部階調が非常になめらかなのも特徴的で、逆光での人物撮影でも髪の毛や明暗のグラデーションが非常に美しく撮影できます。

 これは教訓としてとらえるべきで、現在のビデオカメラのCMOSについて、根本的かつ構造的な部分にまでメスを入れる必要があることを示しています。「CMOSだからノイジーだ」ではなく、ノイズの少ないCMOSを作れば美しい映像が得られることを考えるべきですね。

 「Gレンズ」としたレンズは収差が少なく美しいのですが、特に新搭載された虹彩絞りも効いています。これまでは絞り羽の影響でボケが菱形になっていましたが、本製品ではなめらかにボケてくれます。HD時代は被写体深度を利用して、ボケ味を積極的に生かす手法も有効になっているのですが、アウトフォーカスの美しさには驚かされます。

 手持ちでの撮影時にも驚かされます。広角側のブレ補正量が従来機に比べて大きくなっており、歩きながらの撮影でもブレが少ないのです。歩いているとカラダは上下するので、それが映像に反映されてしまうのが普通ですが、本製品ではそれがとても少なくなく安定しています。

 歩きながら撮るというシチュエーションは結構多いので、この手法は有効だと思います。次は腰を据えてしっかり撮る際のブレを取り除くことが課題になるでしょう。つまり被写体がブレる動画ボケに対して、有効な対策を考えることです。映像については、解像感が高いだけではなく、情感も感じさせるグラテーション゛豊富なのが印象的です。

 GPSの搭載も新しいですね。それほど日常的には使わないものですが、海外旅行や仕事で利用する際にはさまざまな活用法がありそうです。ですが、軌跡の表現はできないので、そこは再現して欲しい点ですし、地図もさらに詳細にしてもらえると面白いですね。

 ひとつだけ惜しいのが、AVCHD/24Mbpsモードの未実装です。後処理の問題もありますが、機能として備えて欲しかったと思います。またこれらの特徴を備えたのはHDDモデルのみなので、メモリモデルの登場も期待したいところです。それに、本製品の特徴を「HDR-TG1」にもフィードバックして欲しいですね。HDR-TG1は手ブレが弱点ですから。

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