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ショーイベント報道が変わる、そしてその先は?小寺信良の現象試考(3/3 ページ)

» 2009年05月11日 12時25分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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動画配信、そしてその先へ

 それでも動画配信によるリポートは、今後伸びていくだろう。何よりも今、IT環境やデジタルデバイスは、そっち方向に向かってものすごい勢いで進化している。日本ではいまひとつマイナーな存在だが、米国ではYouTubeにダイレクトにアップできる機能を内蔵したMP4カメラが人気だ。

 画質的には、いわゆる中国製ムービーカメラなので期待できないが、それでもそこそこの帯域で再生可能な動画ということを考えると、画質云々が問題ではない。それよりも問題は、音であろう。だいたいこの手のカメラに付いているマイクは特性が良くないことと、指向性が広いので、うるさい会場の中で狙った誰かのしゃべりを記録することが苦手である。

 従ってそこを解消するためには、外部マイク入力が欠かせなくなるわけだが、そうなるともう普通のビデオカメラしか選択肢がない。なかなかうまい具合にフィットする商品がないところが悩ましい。PRONEWSの記者たちも、カメラ選びでは試行錯誤を繰り返しているようだ。

 カメラ選びということでは、実はカメラのサイズというか、ルックスも結構重要である。ショルダー型の大きなカメラを担いで、照明・音声さんがついて回るような取材クルーぐらいの規模になれば、そこはNAB来場者も慣れたもので、収録中は場所を空けてくれたりする。

 だが民生機に外部マイクを付けた程度だと、誰も取材だと認識してもらえないので、まず場所を空けてくれたりもしない。見ただけで取材であることが分かるというのは、言葉で説明する手間がないため、取材が破格に楽になるというメリットがあるのだ。

 そこまでクルーと機材にお金がかけられないというのであれば、編集でかなり手を入れないと、見ていて厳しいコンテンツとなってしまう。いくら速報とはいえ、ただ撮りっぱなしの映像を20分も30分も眺めるほど、視聴者はヒマではないのである。そのあたりのコストと出来のバランスが、いわゆる撮って出しWeb動画ニュースの課題であろう。

 もう1つの課題は、言語の壁である。国内での取材なら問題ないが、海外取材だとしゃべる方は大抵英語である。それをそのまま流しても、理解できる人は少ない。この問題をクリアするには、2つの方法がある。1つは、バックで待機している編集部スタッフが字幕なり翻訳文なりを作る方法。もう1つは、ユーザーのパワーに任せて日本語の情報を自由に付加してもらう方法である。

 現実的には、前者しかないだろう。後者のやり方は、いくら送り手が目論んでも、誰も付いてこない場合はどうしようもない。そのあたりは、送り手がコントロールすることはできない。

 しかし後者の方法が回転し始めれば、これは報道という観点から見れば革命的である。最前線から発信される一次情報に、それを見る人間があとから情報を付加して情報そのものを成長させていくというやり方は、これまでのマスメディアにはなかったからだ。

 これまでWeb上のコンテンツ流通の課題は、二次創作をどのように管理していくかであった。それは、やらせるのかやらせないのかという判断のフェーズから、やらせるならそれをどう活用できるかのフェーズに入ってきている。

 エンタテイメントのコンテンツに比べて、ニュースソースをいじらせることは、情報の信ぴょう性という面で危険ではある。しかしそれは感想や好き嫌いを書き込むものではなく、あくまでも知り得た情報を書き込み、相互に客観性をチェックする仕組みをデザインすることで、ある程度の方向性は求められるのではないかと思う。

 もしそういうメディアをネット上に作ることが出来れば、私たちは情報社会に生きる人間として、もう一歩先へ進むことが出来るだろう。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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