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» 2009年10月29日 16時48分 UPDATE

矢野渉の「金属魂」的、デジカメ試用記:心を豊かにさせる“くすぐり”――ペンタックス「K-7」(2)

カメラマン・矢野渉氏が被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。ペンタックス「K-7」を題材にした番外編の最終回となる今回は、各所に潜む“くすぐり”について。

[矢野渉,ITmedia]

 この試用期の初回(→指2本で探る宝箱――ペンタックス「K-7」)で「K-7はハイアマチュアのための宝箱」だと僕は書いた。今回は、そのあたりをさらに掘り下げたいと思う。

 K-7の付属品で目をひくのは「三角環(さんかくかん)カバー」だ。

photo 合皮製の三角リングカバー。本来なら牛革製がいいのだが、多くは望むまい。これが付属しているだけでおじさんはうれしいのだ

 おそらく40代半ばよりも若い世代にはこのカバーの本当の意味が理解できないかもしれない。このアクセサリーはカメラがまだレンジファインダーだった頃、主流だったものだ。

 金属のリングがカメラのボディとこすれて傷をつけてしまうことを防ぐための工夫だが、僕はむしろデザインとしてとらえていた。ライカM3などのレンジファインダーカメラは、プリズムを持たない分ボディが小型軽量だった。当然ストラップも細い、1センチ幅ほどの牛革製がデフォルトになる。その両先端にこのリングカバーが雪洞(ぼんぼり)のようにくっついていると、そのバランスがとても可愛いのである。

 周囲の人間も「あの人は自分のカメラを大切に思っているのだ」とやさしい気持ちになれる。プロが道具としてカメラを使うのとは対極にある、ハイアマチュアの心意気を凝縮したようなアクセサリーだったのである。

 しかし一眼レフが主流になり、カメラが大型化し、そのデザインも未来的な有機生命体のようになってしまうと、クラシカルなリングカバーははやらなくなってしまった。

 それをあえてペンタックスは付属品として付けたのだ。これはK-7が小型・軽量だというさり気ない主張だ。リングカバーをつけても確かにバランスのいいボディである。

 そしてもうひとつのメッセージは「私たちはあの時代を忘れてはいませんよ」ということだ。フィルムの時代からずっとハイアマチュアであり続けたオヤジたちは心を打たれるだろう。K-7のこういった「くすぐり」はあちこちに見られ、持っているだけで心が豊かになるカメラだ。

photo 「DA35mmF2.8 Macro Limited」による撮影。絞りは開放。短いレンズだが、意外にやわらかいボケ味を持っている

 K-7の機能面は、多彩すぎて書ききれない。おそらく現在できることはすべて網羅し、詰め込んである。しかし設計の対象は常に「ハイアマチュア」だ。例えば水平自動補正などはプロなら眉をしかめるような機能だが、アマチュアはぜひ使いたいと思うだろう。100%の視野率を持つファインダーを持ちながら、ライブビューもできる。そんなところがK-7の真骨頂だと言えるだろう。

 もうひとつ、写真を長く趣味にしてきた人たちにとってうれしい事は「PCレス」という方向性だ。3型の背面液晶内ですべての作業が行えるのだ。撮影時の様々なパラメーターは細かく設定できるし、それをライブビューで見ながら作業ができる。また、RAWで撮影したデータをカメラ内で現像することさえ可能だ。この場合も、現像はカメラまかせではなく自分で色々といじることができる。

 フィルムの時代を知っている人は、とりあえずRAWで撮影しておいて後は家に帰ってからゆっくりPC上でいじればいいや、という感覚に違和感を感じているはずだ。ありったけの注意を払い、緊張感でいっぱいになってシャッターを切るのが「写真」だったのに、と。

photo レンズは「DA70mmF2.4Limited」。後ろのボケよりも前ボケの描写が美しい。ポートレートにはもちろん使えるが、常用してスナップ撮影をするのも面白いだろう

 「PCレス」ができれば、その昔の感覚に少しだけ戻れるだろう。撮影時に液晶を見ながら試行錯誤をしてシャッターを切り、その場で完結する。これが静止画の本来の姿だ。PC上での後処理を前提とするならば、それはむしろ動画の感覚に近くなってしまう。

 とりとめもなく書いてきたが、K-7はぜひ欲しいカメラだ。レンズは短焦点のリミテッドが2本ぐらいあればいい。ズームは買ってはいけない。コリッとはずしてカチャンとはめこむ。レンズ交換もカメラを楽しむひとつの行為なのだから。

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