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「逆算モノづくり」へのシフト――カシオ計算機(前編)デジタルだからできること(1/2 ページ)

» 2010年04月14日 12時56分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 デジタルカメラはその登場当初、フィルムが撮像素子になった「フィルムカメラのデジタル化」に過ぎなかった。しかし、画素数の増大をはじめとしたデジタル化が進むに従い、AFスピードや画質向上といったカメラとしての基本性能はもちろん、近年ではデジタル処理によって得られる効果を前面に押し出した製品が増えるなど、旧来的なカメラとは異なった進化を遂げ始めた。

 本連載「デジタルだからできること」では、旧来のカメラとは異なる進化の道を歩み始めたデジタルカメラの「デジタルならでは」を各社に尋ねる。今回は最高60コマ/秒の高速連写&1200fpsの高速ムービーを実現した「HIGH-SPEED EXILIM」シリーズなど、デジタルカメラならではの機能を搭載した製品を数多く送り出しているカシオ計算機のQV事業部 商品企画部 第2企画室の宮田陽氏と今村圭一氏に、同社の「デジタルならでは」を聞いた。

photo 宮田氏(写真=左)はQV-10からデジカメを担当するプロダクトマネージャー、今村氏(写真=右)はEXILIMシリーズ誕生とほぼ同時にチームへ参加。EXILIMエンジンを担当する

――まずはデジタルカメラ「EXILIM」シリーズに搭載されている画像処理エンジン「EXILIMエンジン」が、どのような役割を果たしているか教えてください。

今村氏: 一口に「画像処理エンジン」と言ってしまうとぼんやりした印象になりますが、レンズの制御だけではなく、RAWからJPEGへの変換を始めとしたさまざまな画像処理など、デジタルカメラにおけるほぼすべての処理を担当しています。当社のHIGH-SPEED EXILIMシリーズは専用プロセッサを併用することで、超高速で流れてくる信号をバッファに展開し、数十枚におよぶRAWデータを低発熱で連続処理することを可能としています。

――画像処理エンジンの役割は基本的に「レンズから入った光を画像データへと処理すること」で、デジタルカメラの登場初期は汎用DPSも使われていたそうですが、既にそれだけではない領域に入っているのですね。

今村氏: 最新の「HIGH-SPEED EXILIM」である「EX-FH100」、ならびに「EX-FC150」のコンセプトは「時間の支配」です。どんな人が使ってもシャッターチャンスを逃さず撮影することを目的とし、瞬間をとらえるために「高速連写」、撮り逃さないためにシャッターを切る前の0.8秒までを記録する「パスト連写」を搭載しています。この実現は単純に回路の処理能力を上げるだけではダメで、消費電力と発熱の問題をクリアする必要があり、そのために既存技術では対処できなかったのです。

photo “HIGH-SPEED EXILIM”「EX-FH100」

 高速連写とバッファリング処理は「決定的な一瞬を撮り逃さない」ために実装したのですが、結果として高速連写した画像をカメラ内で重ね合わせ処理することも可能となり、具体的には「ハイスピード[HS]夜景」や「ハイスピード[HS]ライティング」というかたちで、前者は夜景撮影時におけるノイズとブレの軽減、後者はダイナミックレンジ拡張というメリットを得ることができました。重ね合わせについては特異点の検出を元に行いますが、それも画像処理エンジンが行っています。

 EX-FC100のメインコンセプトは「時間の支配」ですが、「画質」「撮影のしやすさ」にも革新を加えたいと考えました。夜景を撮影する際、銀塩カメラでは三脚に固定してフィルムの感度を上げるか、露光時間を長くする必要がありましたが、デジタルカメラならば信号を増感して対処できます。ただ、素子から来る生の画像には大量のノイズが乗っています。そこでわたしたちが考えたのが、重ね合わてのノイズ低減処理です。シャッタースピードを下げると手もち撮影ができなくなる、この不便さを解消したかったのです。

 画像処理エンジンの設計という観点から言えば、これまでは撮像素子の大型化に対応するためにどうするか、という考え方でした。ですが、今ではカメラへ「何を望み」、そのためには「どのような性能が必要となるか考え」た上で、「どのようなニーズを満たせるか」という、これまでとは逆方向からの考え方をする段階に入っています。

宮田氏: カシオ計算機はレンズも撮像素子も自社で製造していないので、コアコンピタンス(競合にまねできない、核となる技術)は画像処理エンジンなのです。そして、今、画像処理エンジンがレンズの収差やひずみを吸収できる段階に来ています。エンジンの進化がカメラ本体の大きさやデザイン、価格にも大きな影響を与えているのです。

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