サッカーのFIFAワールドカップの開催でにわかに注目を集めている南アフリカ共和国だが、実際そこがどんな場所なのかを知る日本人はあまり多くないだろう。そもそも「アフリカ」という言葉から連想されるイメージが、日本では極めて乏しく、偏っているように思われる。
広大なサバンナを悠然と歩む無数の動物たち、そこで繰り広げられる弱肉強食のサバイバル、そして槍を持って飛び跳ねるマサイ族の戦士。日本で一般的に定着しているアフリカ大陸のイメージはせいぜいこの程度ではないだろうか? 事実そのような場所もあるにはあるが、それは東アフリカのケニヤとタンザニアのほんの一部分に過ぎない。それ以外にメディアがとり上げるのは、耳目を集めやすい飢饉(ききん)や戦乱の話題が多い傾向があり、つまるところ「野蛮で未開の土地」というイメージが強いように思われる。
しかしながら、アフリカは「大陸」である。つまりバカでかいのだ。総人口は約9億人、国の数にしても50以上もある。確かに世界で最も貧しい国々の集中している地域ではあるが、その中でも政治経済の状況には大きな差があるし、自然環境のバリエーションも想像を絶するものがある。
そんなアフリカにおいて、南アフリカ共和国は最も経済的に発展した国である。道路網を始めとするインフラは整備が行き届いており、トヨタやメルセデス・ベンツなどの大手自動車メーカーが現地工場を設けるほど産業も発達している。また、携帯電話やインターネットなどの情報通信手段の普及度も高い。プレトリアやケープタウンといった都市には巨大なショッピングモールが立ち並び、最新のデジカメも買えるし、ヨハネスブルグにはニコンのプロサービス(NPS)すらある。FIFAワールドカップのような世界的なイベントを開催できるのにはそれなりの理由があるのだ。
南アフリカは環境保護の分野でも大陸一進んでいる。ライオンやゾウなどの野生動物が、観光資源として非常に重要であることを国家が認識しているため、国内には国立公園や自然保護区が数多く存在するのだ。
そんな南アに、日本人の「アフリカ観」とは、およそ結びつかない動物がいる。それはペンギンだ。その名もズバリ「アフリカペンギン」。体長60センチ程度の中型のこの海鳥たちは、れっきとした南部アフリカの固有種だ。南アフリカ共和国の南端近くにあるケープタウン市周辺の海岸が主な生息地となっている。
あまり人を恐れず、年中同じコロニーにいるので、南アフリカ観光の目玉の1つとなっている。姿形も愛きょうがあり、撮影対象としても面白い。他の海鳥と違って大接近が可能という点も特筆に値する。通常、鳥類の撮影には500ミリなどの超望遠レンズを必要とする場合が多いが、アフリカペンギンに限っては70〜200ミリ程度のレンズでも十分な大きさで撮れる。状況によっては17ミリのような超広角レンズで、思いっきり寄るなんて事も可能で、とにかく色々と「遊べる」被写体なのだ。
主な撮影スポットは2カ所、サイモンズタウン(ボルダーズビーチ)とベティーズベイだ。いずれもケープタウンから容易に日帰り出来る距離にあり、ボードウォークなども整備されているので実に気軽に撮影できる。アフリカで野生動物の撮影というと四輪駆動車でブッシュに分け入るサファリが連想されるが、ペンギンの撮影はむしろ東京都内の公園で池のカモを撮っている感覚とさして変わらない。
発達した経済基盤と多様な環境、そして充実した保護政策。自然写真家にとって、これらすべての条件を満たす南アフリカは非常に魅力的な国だ。過去10年間、毎年のように彼の国を訪れているが、毎回新たな発見や出合いを与えてくれている。
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。
【お知らせ】山形氏の新著として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが出版されました。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
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