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小型軽量と一眼クオリティを両立できた秘密――ソニー「NEX」開発者に聞く(前編)永山昌克インタビュー連載(1/2 ページ)

» 2010年06月22日 11時43分 公開
[永山昌克,ITmedia]

 今月、ソニーから発売されたレンズ交換式のデジカメ「NEX-5」と「NEX-3」。最大の特徴は、これまでのデジタル一眼レフと同等となる大型CMOSセンサーを搭載しながらも、ボディを小型軽量にまとめたこと。コンパクトデジカメの感覚で気軽に持ち歩きながらデジタル一眼レフに匹敵する画質を得られるカメラである。

 その開発の狙いを担当者に聞いてみよう。話をうかがったのは、商品企画を担当したソニー コンスーマープロダクツ&デバイスグループ パーソナル イメージング&サウンド事業本部 GP商品部 担当部長 藤野明彦氏と、同社 コンスーマープロダクツ&デバイスグループ パーソナル イメージング&サウンド事業本部 商品企画部門 商品企画1部 4課 プロダクトプランナー 牧井達郎氏、画像設計を担当した同社 コンスーマープロダクツ&デバイスグループ パーソナル イメージング&サウンド事業本部 イメージング第3事業部 技術設計部 6課 水口淳氏の3名だ。

photo 左から牧井氏、藤野氏、水口氏

真っ黒なモックアップモデル

――NEXの開発はいつごろから、どういう経緯で始まったのですか?

藤野氏: 2008年の年末ごろ、当時の石塚事業本部長によって少数のメンバーが集められ、真っ黒なモックアップモデルを見せられました。デジタル一眼レフをものすごく小型化したような形と大きさのモックです。細かくデザインされたものではなく、その時点ではディテールは何も決まっていませんでした。そして「こういうモノを作りたい。すでに社長には作ることを約束した」というのです。事業本部長のそんな言葉から、NEXのプロジェクトが動き出しました。

――従来のαシリーズの開発スタッフが、NEXの開発を手掛けたのですか?

藤野氏: それまでは、従来のαシリーズはαシリーズで、サイバーショットはサイバーショットで、それぞれの計画に沿って開発を進めていました。そんな中、NEXは突然生まれたプロジェクトでした。最初から体制や人員がそろっていたわけではなく、1からのスタートです。商品コンセプトは、一眼のクオリティを持ちながらコンパクト機のようなポータビリティを兼ね備えたカメラ。つまり、従来のαとサイバーショットの中間領域に位置する製品です。そこで急遽、従来のαとサイバーショットのスタッフが中心になって、NEXの開発を受け持つことになりました。

――開発の初期の段階で決まっていたことは?

藤野氏: イメージセンサー(撮像素子)にAPS-Cサイズを使うことは最初から決めていました。小型軽量を実現するためにはセンサーは小さな方が楽に設計できますが、画質を考えると、通常のデジタル一眼レフで使っているAPS-Cサイズの採用が絶対の条件だからです。もちろん、レンズ交換式であることも前提です。また、2010年6月という発売時期も最初から決まっていました。

photo

――開発を始めた2008年頃といえば、他社からミラーレスタイプのデジカメが登場し始めた時期です。そこに御社も参入し、デジタル一眼レフでもない、コンパクトデジカメでもない、新しい市場を作っていきたいという狙いがあったのでしょうか?

藤野氏: それまでの開発では、サイバーショットはサイバーショットで小型化や多機能化を進め、従来のαシリーズはαシリーズでデジタル一眼レフの路線を展開していました。しかし、それだけでは少しもの足りなく感じる部分があり、デジタル一眼レフのクオリティをもっと幅広く使っていただきたい、新しいユーザー層を広げたいという思いがありました。

 ごくおおまかに言って、デジタル一眼レフのマーケット規模は全世界でおよそ1000万台です。一方、コンパクトデジカメのマーケット規模は、さらに1桁増えておよそ1億台となります。近年はデジタル一眼レフが成長していますが、それでもマーケットのサイズにはまだ大きな差があります。その上で、コンパクトデジカメの購入者の約10%が一眼レフ機の購入を検討したことがある、という調査結果があります。

 そんな人たちに、デジタル一眼レフのクオリティや楽しみを味わってもらいたい、というのが狙いです。メインのターゲットユーザーは、デジタル一眼レフに対して憧れを持っている人です。と同時に「大きくて重い/価格が高い/難しそう」といった点を障壁に感じている人たちでもあります。

――コンセプトにうたう「一眼クオリティ」とは、どんな意味ですか?

藤野氏: 大きなイメージセンサーによる高画質や背景のボケといった要素は当然ありますが、単に画質だけを指すものではありません。モノとしての質感や、撮った瞬間の感触、AFの操作感などを含め、「一眼に対する憧れ」を体験でき満足できることです。

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