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小型軽量と一眼クオリティを両立できた秘密――ソニー「NEX」開発者に聞く(後編)永山昌克インタビュー連載(1/3 ページ)

» 2010年06月23日 09時16分 公開
[永山昌克,ITmedia]

 「真っ黒なモックアップ」から始まった、ソニー「NEX-3」「NEX-5」(小型軽量と一眼クオリティを両立できた秘密――ソニー「NEX」開発者に聞く(前編))。後編では、その小型軽量を実現するためにそぎ落としたもの、得たものについて尋ねていく。また、NEXシリーズと従来のαシリーズとの住み分け、第1弾として用意した2本のレンズの狙いについても尋ねていく。

 話をうかがったのは、前回に引き続き、商品企画を担当したソニー コンスーマープロダクツ&デバイスグループ パーソナル イメージング&サウンド事業本部 GP商品部 担当部長 藤野明彦氏と、同社 コンスーマープロダクツ&デバイスグループ パーソナル イメージング&サウンド事業本部 商品企画部門 商品企画1部 4課 プロダクトプランナー 牧井達郎氏、画像設計を担当した同社 コンスーマープロダクツ&デバイスグループ パーソナル イメージング&サウンド事業本部 イメージング第3事業部 技術設計部 6課 水口淳氏の3名だ。

photo 話を伺った牧井氏、藤野氏、水口氏(左より)

フラッシュとファインダーを削ぎ落とす決断

――これほど小型化できた最大の理由はなんでしょうか?

藤野氏: いちばんのポイントは、極限までフランジバックを短縮したことです。最終的にはフランジバックを18ミリにしましたが、その数値を決めるまでには多くの議論と検討を重ねました。また、もう1つの大きなポイントは、従来のデジタル一眼レフには欠かせなかったミラーボックスを省いたことです。ミラーボックスには、マウントをしっかりと取り付け、精度と強度を保つ役割もありますが、NEXの場合は、マグネシウム合金製の外装自体がその役割を兼ね備えています。

牧井氏: 内部の基板などについては、「DSC-TX1」のような薄型サイバーショットと同じく、厚みのある部品ができるだけ重ならないように入れ子のような構造を取り入れています。さらに、チルト式の液晶モニタは、ヒンジ部分に独自の工夫を盛り込んでいます。従来のチルト式では、ヒンジ部分にどうしても厚みが生じがちでした。しかしNEXでは、ヒンジの出っ張りが内部に埋め込まれるような形状にして、重なった場合でも出っ張りが生じません。一見するとチルト式とは思えないような薄さを実現しています。

photo チルト式液晶モニタを搭載しながらも薄型ボディを実現している(写真はNEX-5)

――内蔵フラッシュやビューファインダーを省略することは、大きな決断だったのですか?

藤野氏: はい。ふつうに作っていたら、内蔵フラッシュは欲しいでしょうし、ビューファインダーもあったほうがいいでしょう。しかし最終的には削ぎ落としました。開発が進み、ある程度まで作り上げた段階で、フラッシュやファインダーを内蔵したモデルと、内蔵していないモデルを比較検討してみました。もし購入するなら、有りと無しのどちらを選ぶか?

 頭の中で考えるだけなら、誰だってフラッシュなどを搭載しているモデルのほうがいい、と判断するでしょう。しかし、実際に形になったものを見せると、削ぎ落としたモデルのほうが大きな支持を受けました。開発者もユーザーですから、われわれ自身が面白いと感じ、購買意欲をそそられることが大切です。とことんまで小型軽量化し、尖がったカメラにすることは、それを手に取って初めて感じる面白みであり、魅力だと思うのです。

――内蔵フラッシュやビューファインダーがないことで、不便や不自由は生じませんか?

藤野氏: 真っ暗な場所などフラッシュが欠かせないシーンはあると思いますので、外付けタイプの小型フラッシュを同梱しています。ただし、NEXは非常に高感度に強いカメラです。フラッシュが必要なシーンはそれほど多くないとも思っています。私自身かなり使い込んでいますが、フラッシュ撮影をする機会はめったにありません。

 ファインダーについては、私自身がこれまでに一眼レフの開発をしてきた経験や、実際のユーザーとしての立場を踏まえて、ファインダーをのぞいて撮影したいという欲求やニーズはよく理解しているつもりです。今でも時々、撮影の際についカメラを顔に近づけてしまうことがあるくらいです。しかし、NEXはファインダーがないかわりに、液晶パネルの見やすさに非常に力を注ぎました。

 VGA/92万画素という高解像度はもちろんですが、デジタルフォトフレームの分野で培った「TruBlack」という技術をベースにして、反射しにくいコーティングや、ガラスの下に樹脂を入れて内面反射を抑える工夫、高輝度のバックライト、表示の絵作りそのものを変える屋外晴天モード、照度センサーによる自動調整機構など、さまざまな仕掛けを盛り込んでいます。これらによって明るい屋外でも十分な視認性を確保し、液晶を“大きなファインダー“として使えるまで作り込みました。

photophoto

――小さいボディに部品を詰め込み、しかも大型のイメージセンサーを採用しています。発熱への対策に特別な工夫をしているのでしょうか?

藤野氏: 放熱には十分に気を使って設計しています。小型化のために採用したマグネシウムのキャビネットや電池ボックスといった金属体へ、熱を逃がす構成にしています。これもサイバーショットなどで培った技術の応用といえます。しかも、サイバーショットよりも大きなイメージセンサーなので、その分発熱量は大きくなり、より的確な放熱設計が必要でした。特効薬のように、問題がすんなり解決する特別な技術があったわけではなく、今まで地道に進めてきた1つ1つの技術の積み重ねなのです。

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