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アフリカへの最大関門は厳しい大自然でもはるかな距離でもなく、空港だ山形豪・自然写真撮影紀

» 2010年06月30日 19時31分 公開
[山形豪,ITmedia]

 今回はフィールドにたどり着く前の話をしてみようと思う。

photo 哺乳類の撮影には超望遠レンズを用いることが多い。ニコンD300, AF-S 500mm f4, 1/1600 f5.0, ISO640

 アフリカの撮影地に行くには、まず日本から飛行機に乗らねばならない。至極当たり前の事なのだが、実はそれが毎回大きな悩みの種となる。飛行機が苦手とか、飛ぶのが怖いとかいう意味ではない。問題は携行する機材の重量なのだ。貧乏写真家の私は、極力旅費を節約せねばならないので、当然、航空券はエコノミークラスの格安チケットを利用する。しかしこれには様々な制約がある。特に荷物の重量制限に関しては融通が利かない場合が多く、預け荷物の上限は20キロというのが一般的だ。

 ところが、私は野生動物を主な撮影対象としているため、バカでかく重い超望遠レンズを必要とする。しかも、アフリカの現場では常に熱や振動、ホコリなどにさらされるため、使用機材はすべて耐久性の高いものでないと、あっという間に壊れてしまう(機材の扱いが悪いだけという話もあるが……)。ところが、頑丈なカメラやレンズはどれもみな重いのだ。

 毎回携行する機材のリストはざっと挙げるだけで、デジタル一眼レフのボディーを2つ(現在はニコン「D700+MB-D10」と「D300」)、AF-S 500mm f4 II、AF-S 70-200mm f2.8 VR、AF-S 17-35mm f2.8、AF Micro 105mm f2.8、テレコンバータ、スピードライト(SB-800とSB-600)、双眼鏡、MacBook、外付けHDD、三脚+雲台――とこれぐらいにはなる。

 このほかにバッテリー、充電器、各種ケーブル、ACアダプタなどなどの小物が付いてまわり、さらに衣類や資料などが加わる。荷物の総重量が規定数値内に収まることは、まずあり得ないのである。

photo は虫類や両生類、昆虫の撮影にマクロレンズは欠かせない。ニコンD700, AF Micro 105mm f2.8, スピードライトSB-800, TTLコードSC-29, 1/250 f32, ISO1600

 航空会社によっては、25キロぐらいまで目をつぶってくれることもあるが、それとても毎回確実とは限らない。フライトが満席に近いと、やたらとうるさくなったりするし、超過料金は1キロあたり7000〜1万円というシャレにならない金額だ。そんなわけで、チェックインの際には毎回冷や汗をかき、胃がキリキリする感覚に苛まれる。このチェックインカウンターこそが、私とアフリカのフィールドとの間に立ちはだかる難関なのだ。

 だったらカメラやレンズは、すべて機内持ち込みにしてしまえば良いではないかという意見もあろう。確かにそうなのだ。しかも、預け荷物に撮影機材を入れるのは破損や紛失のリスクも高い。行き先がいわゆる途上国であればなおさらだ。

 ところが、手荷物には重量のみならずサイズや個数の制限が存在するのであまり大きなカメラバッグは使えないし、小さなバッグをいくつも持ち込むこともできない。私が現在機内持ち込み用に使用しているのは、ロープロのコンプローバーという中型リュックタイプ1つだ。

photo 岩間に咲く花を。風景や花には超広角レンズを多用する。ニコンD700, AF-S 17-35mm f2.8, 1/160, f20, ISO800

 リュックの中仕切りはすべて取り払ってなるべく多くの物が入るようにしている。それでも、500mmレンズはとてもかさばるので、これにボディ2台とパソコンを足したらあまりスペースは残らない。しかも、機上中は頭上のロッカーに入れなければいけないので、バッグが重過ぎると落下した時に怪我人が出る恐れもある。

 では、いかにして超過料金を払うことなく、かつ安全に機材の大半を機内へ持ち込むのか?答えは、「可能な限り身につけてしまう」だ。

 長年使い続けているドンケのフォトベストには大小さまざまなポケットがついており、マクロレンズやストロボくらいなら入る。小さい割に重いバッテリーなどもすべてポケットにつっこみ、それでも足りなければベルトポーチを利用する。こうして数キロ分の機材を身にまとい、機内に持ち込むのだ。空港で手荷物の重量を計られた経験はあるが、「服」を計量されたことは、いまだかつてない。

 最近では、南アフリカ在住の友人も増えたので、キャンプ道具や大型三脚などは現地に預けられるようになった。おかげで以前に比べれば撮影旅行に出る際の荷物は減った。そうは言っても、メイン撮影機材は南ア以外でも使用するわけで、すべてを向こうに置いておくわけにはいかないのが実状だ。そのため飛行機に乗る際の苦労からは当分解放されそうにない。

 ビジネスクラスで悠々と撮影に出掛けられる日は果たして来るのだろうかと、ついつい考えてしまう今日この頃だ。

著者プロフィール

山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。

【お知らせ】山形氏の新著として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが出版されました。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)


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