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10年を超えてなお輝く孤高のカメラ――キヤノン「PowerShot G1」矢野渉の「クラシック・デジカメで遊ぶ」(1/2 ページ)

» 2010年10月22日 17時54分 公開
[矢野渉,ITmedia]

Gシリーズの元祖はすでに完成の域にあった

 手元にあるPowerShot G1の保証書に記載されている購入日付は2000年10月25日になっている。発売日に購入した記憶があるので、Gシリーズは間もなく10周年を迎えるということになる。現行機種はG12だが、G4とG8が欠番なので全10機種。毎年マイナーチェンジを続けているわけだ。

photo PowerShot G1のレンズは35ミリ換算34〜102ミリ F2.0-2.5。このレンズの持つポテンシャルは高く、カシオやソニー、東芝のコンパクトデジカメにも採用された。レンズの真上にある光学ズームファインダーはGシリーズのDNAだ

 G1のデビューは、僕のような写真を生業としている人間には鮮烈だった。起動の遅さなどの弱点を我慢すれば、あがってくる写真は当時のデジタル一眼レフをも凌駕(りょうが)したものだったからである。

 Gシリーズのコンセプトは「EOSデジタルのサブカメラ」ということだろう。だから毎年新機種が出ても進化はごくわずかだ。なぜならスティル写真の画質を少しでも向上させることが唯一の目標だからだ。このG1から動画撮影機能は付いているが、それはあくまで「おまけ」的なものであり、目指すところは写真のみ。分かりやすく、玄人好みのするカメラだ。

 キヤノンはこのG1で初めて「映像エンジン」というものを打ち出した。その主な目的はノイズリダクションである。この機能と、もともとCCDに到達する光の量が多い補色系フィルターとのマッチングで、特に長時間露光での画質は良好なものになっている。

 もう1つの特徴は二軸のバリアングル液晶だろう。この横開きのバリアングルはキヤノンのオリジナルで、かなりこだわりがあるのだろう、G7で一度なくなったが、G11でまた復活している。ほぼすべての角度でのライブビューが可能になるので、使い込むほどに意外な撮影ができる(※バリアングル液晶の記述について誤りがありましたので該当カ所を訂正しました。2010年10月24日)。

photo 背面。ボディが大きい分、1.8インチ液晶がよけいに小さく見える
photo フロントパネルは金属製だが、それに続く上面、背面パネルはプラスティックだ。その境目をわかりにくくデザインしてある。合理性を追求したカタチにはキヤノン独特の美しさがある

 それにしても、目をひくのは大きさだ。小ぶりのレンガのぐらいの容積で、重量は電池別で420グラム。付属のケースには予備バッテリーのスペースもあるので、ケースに入れたセットの総重量は650グラム弱にまでなる。これを付属の細いネックストラップで首からぶら下げると、どんな人でも前のめりになってしまう。このカメラは「高級コンパクトデジカメ」というくくりから外れた、孤高のカメラだったのである。

photo メモリカードが安くなった今ではまったく意味のないことだが、TypeIIスロットを持っていたのでマイクロドライブが使えた。この時代は大容量を得るためにはこの方法しかなかった
photo 液晶を開くと横長のくぼみが現れる。ここに親指を置いて、カメラをはさみ込むように持つとホールドしやすい。大ぶりのボディを軽快に扱える。

仕事でも使えるポテンシャル

 僕はこのカメラを仕事用に購入した。理由は強力なノイズリダクション処理と、RAW撮影ができること、この2点につきる。スタジオでの物撮りがメインの仕事なのだが、特に長時間露光時のノイズに悩んでいたのだ。全部ストロボでの撮影なら問題ないが、微妙なライティング時にはどうしても定常光で光の具合を見ながら撮影したい。そうすると納品がためらわれるような写真ができてしまっていた。

 G1を導入して驚いた。ノイズがまったく無い。色味もRAWで撮影しておけば後からどのようにも料理できる。もう時効だろうから白状するが、この4:3比率のG1画像の上下を少し切って3:2にし、まるでデジタル一眼で撮影したように見せかけて写真を納品したことも何度かあるのだ。

 この差を作例で見てみよう。わかりやすいように黒い被写体を黒バックで撮影してある。等倍で見るとその差は明らかだ。

photophoto 左はG1と同時代のプロ用デジタルカメラの画像。8秒露光。全体に砂嵐のようなノイズが乗っている。こうなると画像処理ソフトを使ってもどうにもならない。右はG1による画像。露光は同じく8秒。ノイズはゼロだ。G1は1.3秒以上のシャッターで自動的にノイズリダクションが効く
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