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過去と未来への仕掛けを備えたカメラ――ペンタックス「K-5」(1)矢野渉の「金属魂」的、デジカメ試用記(1/2 ページ)

» 2010年11月24日 17時00分 公開
[矢野渉,ITmedia]

PENTAX流の「仕掛け」は健在

 K-7で完全に一皮むけ、新しい次元へと踏み出したPENTAXのハイエンドデジタル一眼だが、あまりに完成度が高いために、次の機種のイメージすることが難しかった。それほど、K-7には出来うる限りの機能が詰め込まれていたからである。

 そして1年と4ヶ月、ついにK-7の上位たるK-5がデビューした。僕は実は、ボディの金型もK-7からの流用のようだし、画素数が増えただけのマイナーチェンジだろうと高をくくっていた。しかしK-5には確実な進化と、お家芸とも言える「くすぐり」がちゃんと搭載されていたので、少し安堵したというのが本音である。

photo ペンタックス「K-5」。Limitedレンズとの相性はあい変わらず良好だ。この角度が一番グラマラスに見える。

 K-5を2週間ほど貸与していただき、まず感じたのは「少し大きくなったかな」ということ。データ上ではK-7よりも幅、高さ、奥行きがそれぞれ0.5ミリずつ大きくなっていて、重さは逆に10グラム軽くなっている。しかし体感ではもう少し大きく感じる。「迫力が増した」と言い換えても良い。

 カタログを読んでみてその理由がわかった。向かって右上の上面にあるモードダイヤルの高さが、わずかに高くなっているのだ。滑り止めのギヤ形状の帯一本分だから、ほんの数ミリに過ぎないのだが、印象はまったく変わってくる。

photo おそらくこれ以上高くするとペンタプリズム部のデザインを変えなければならないギリギリまで高くしたモードダイヤル

 かつて、フィルム一眼レフのフラッグシップモデルには「シャッターダイヤル」というものが存在した。このK-5のモードダイヤルのような形状で、ペンタプリズムの反対側に付いていた。カメラをマニュアル設定で使う人も多かったので、ファインダーをのぞきながらシャッターを変える時、右手の親指と人差指でつまんで回転させる、このダイヤルの感触は非常に繊細で重要なものだった。

photo 背面からみるとモードダイヤルの存在感がよくわかる。

 1980年代にニコン「F3P」という機種があった。一般市場には出まわらなかったが、主に報道関係のプロカメラマンの意見を取り入れて作られたモデルだ。これにはチタン外装、各部分のパッキンの強化、シャッター形状の大型化など細かい仕様変更がされていた訳だが、一番目立つカスタマイズはシャッターダイヤルの高さだった。通常モデルの2倍ほどの高さがあったのである。

 ダイヤル高を高くする理由は、厳寒地での撮影の場合に、手袋をしたまま確実にダイヤルをつまんで回すことができるように、ということだ。「厳しい条件の中で撮影をするプロフェッショナルが、カメラに求める高いクオリティ」の象徴的な形が、背の高いシャッターダイヤルなのだった。

 やがて中古市場に流通するようになったF3Pは、プレミアの付いた高額で取引され、ハイアマチュアの憧れの的になった。F3Pを手に入れたハイアマのうち、本当に厳寒地で撮影をした人はほとんどいないだろう。しかし彼らは背の高いダイヤルを眺め、プロの厳しい現場を想像しては、胸を熱くしていたのだ。

 おそらくPENTAXのK-5の開発陣は、この辺の感覚を熟知しているのだろう。写真歴の長いオヤジ達が何を求めるのかを。PENTAXの根強いファンの嗜好(しこう)を。

 写真は既に100%デジタルである。僕も含めてオヤジ達は、そのことは充分に理解している。しかし、どこかに、ほんの少しでいいからアナログの香りが欲しい。だからPENTAXを支持するのだ。PENTAXは既に絶滅したシャッターダイヤルのかわりに、モードダイヤルを残してくれた。ニコン、キヤノンはすでにダイヤルの影はないのに、だ。しかもそれに改良を加え、背を高くする。オヤジ達はすぐにピンとくる。ああ、プロ仕様だね、と。

 この、歴史を踏まえたメーカーとユーザーのコミュニケーションが妙に心地良い。この分野は、PENTAXの独壇場なのかもしれない。

 K-7では、横位置/縦位置で左右の水平出しができたが、K-5においてはそれに加えて前後の水平出しが可能になった。僕はいつも、ホットシューに取り付ける前後左右の傾きが測れる透明なアナログのレベラーを使用している。だから今回やっと使える電子水準器になったなというのが正直な感想だ。

photo ライブビューで画面の角に左右、前後のレベルを表示できる。縦位置でも同様だ。風景や建物の写真には便利この上ない。しかしスナップなどでは逆に気になるので、非表示にしておいた方が良いかもしれない
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