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» 2010年12月24日 08時30分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:500ミリが標準の世界

一般常識と野生環境では常識も変わる。写真についてもまたしかり。野生動物写真は「500ミリが標準」の世界だ。

[山形豪,ITmedia]

野生動物写真と超望遠レンズ

photo 「Ai AF-S Nikkor ED 500mm F4D II(IF)」

 野生動物写真の世界には、警戒心が強く接近するのが困難な被写体や、サイズが小さいためなかなか大きく写せない被写体が多い。そのため倍率の高い超望遠レンズ、いわゆる「長玉」(ながたま)は欠かせない機材の1つだ。

 ニコンユーザーの私は「Ai AF-S Nikkor ED 500mm F4D II(IF)」(通称ゴーヨン)を愛用している。最近では軽量、コンパクトで最大焦点距離が500ミリに達する超望遠ズームレンズも登場してはいるが、シャープさやボケ味の良さ、ピントのヤマのつかみやすさ等の点で大口径単焦点レンズに勝るものはないい。中でもゴーヨンは400mmf2.8(ヨンニッパ)や600mmf4(ロクヨン)に比べてバランスがとても良く、重量もボディと合わせて5キロ程度と手持ちでも扱える範囲に収められる素晴らしいレンズだ(レンズ自体の重量は3430グラム)。

 自然写真のフィールドにおいて機材の取り回しやすさは非常に重要だ。特に長玉を三脚などのサポートなしで使えるメリットは大きい。例えば河川でボートから鳥などを撮影する場合、船上に三脚を立てて撮るのが一番楽なのだが、そのためにはエンジンを切る必要がある。ところが、それをすると船が流されて岩や川岸の木などにぶつかる危険が生じてしまう。相手を驚かせてしまうのでアンカーも使えない。

photo ボートからの撮影。ボツワナ、カヴァンゴ川にて

 仮に手ブレ補正機能がレンズについていても、三脚を介して伝わるエンジンの振動を完全に打ち消すのは困難だ。こんな時、手持ちであれば自分の体が緩衝材の役割を果たすため、振動によるブレを防いでくれるし、カメラを構えるまでの時間が短くて済むので写真の「打率」も上がる。もちろん、長玉を手持ちで使用するにはシャッタースピードを上げて手ブレを防止する必要があるわけだが、最近のデジタル一眼は感度をかなり上げても画質が乱れなくなったのでそれも容易になった。

photo 飛び立つベニハチクイ。ボツワナ、カヴァンゴ川にて:ニコンD300 AF-S500mmf4II 1/1600 f6.3 ISO640 ボート上からマニュアルフォーカス、手持ちで撮影

 では、四六時中サポートなしで長玉を使っているのかというと、もちろんそうではない。手持ち撮影はあくまで短時間でケリがつく時にのみ有効な手段であって、長時間同じ姿勢で大きく重いレンズを構え続けるのは不可能だ。南部アフリカでは、国立公園や動物保護区内で活動することが多く、安全上の理由から撮影はもっぱら車から行う。

 その際は、写真にあるように座席とドアの間に三脚を差し込んで使用している。これにより長時間の待ち伏せも、動いている被写体をとらえるのも容易にこなせるのだ。雲台はボールヘッドに取り付けるタイプのジンバル型だ。長玉使いにとってこのジンバルヘッドは実にありがたい。動きが非常にスムーズな上、3ウェイ雲台のようにいちいちネジを固定しないでもレンズが意図した方向を向いていてくれるし、ビデオカメラ用雲台のようにかさばりもしないからだ。

photo 車内にセッティングされた500mmとD300。南アフリカ、カラハリ砂漠にて

 私が現在ゴーヨンとセットで使用しているボディは「D700」と「D300」の2台。高感度域でもノイズの少ない画像が撮れるD700と、テレコンバーターを使用せずに750ミリ相当の画角が得られるD300を状況に応じて使い分けている。

 被写界深度や背景のボケ具合を細かくコントロールしたいので、露出モードは絞り優先を使うことが多い。ピント合わせはもっぱらオートフォーカス(AF)で行うが、状況次第でマニュアルフォーカスも使う。どんなに精度と速度が上がってもAFは決して万能ではないからだ。

photo カラハリ砂漠のチーター。車から、三脚及びジンバルヘッドを使用。フォーカスモードはAF-C。南アフリカ、カラハリ砂漠にて:ニコンD700 AF-S500mmf4II 1/1250 f16 ISO1250

 例えば、草むらの奥にライオンがいる場合、オートフォーカスだとどうしても最初、手前の草にピントが合ってしまう。また、飛んでいる鳥を撮る際も、相手の移動速度と方向が一定であれば予測駆動フォーカス(AF-C)が有効だが、複雑な動きをする相手に対してはマニュアルフォーカスの方が成功率が高いのだ。これも500mmf4のように明るく、ピントのヤマが見やすいレンズだからこそ可能なのである。

 運搬や取り扱いの面で何かと苦労をする長玉ではあるが、やはり高倍率、高画質のレンズは無くてはならない機材だ。野生動物写真の世界では500mmクラスは「標準レンズ」と言っても過言ではないだろう。

著者プロフィール

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山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

【お知らせ】山形氏の新著として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが出版されました。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)


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