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» 2011年05月16日 16時40分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:自然写真家の社会性

人里を遠く離れた場所で自然と向き合う自然写真家は孤独との縁が深い。ただ、人嫌いでもよいかといえばそうでもない。今回は自然写真家と社会性についてのお話。

[山形豪,ITmedia]

 自然写真家のフィールドワークは孤独との縁が深い。

 人界を遠く離れた場所で自然と対峙し、そこから感じ取ったものを写真という形で表現するわけだから当然だろう。ナミビアの砂漠地帯などで活動をしていれば、来る日も来る日も誰とも出会わずに過ごすことだってある。そのため、孤独が苦手な人は自然写真のフィールドワークに向かない。

photo 人っ子一人いないナミブ砂漠の奥地で撮影中 ニコンD200 18-70mm F3.5-4.5G 1/800 F5.6 ISO200

 ならば内向的で人付き合いが苦手な人間や、偏屈な人嫌いが適しているのかというと、それも違うような気がする。どんな仕事でもそうであるように、自然写真家の活動も、多くの人々との関わり合いの中でしか成立しないからだ。誰の力も借りずに、自分だけですべてをこなすなど到底不可能だ。

 では、フィールドワーカーはどんな時に社会性を必要とするのか? それは何と言っても情報収集の時だ。撮影地や撮影対象に関する情報は、写真家活動の根幹に関わる重要な要素である。そんなものはネットや文献で調べれば良いではないかという意見もあろう。確かに、Webサイトやガイドブックはあるレベルまでは有効だ。例えば、ナミビアのダマラランドと呼ばれる乾燥地帯には「砂漠サイ」と名付けられた珍しいクロサイの個体群がいるといったおおまかな情報までは手に入る。また、動物学の専門誌には参考になる論文なども発表されているので、そういったリサーチも必要だ。

 しかし、文献やネット上に存在する情報は、現場でデータが収集されてから公開されるまでにそれなりのタイムラグがあるため、発表直後のものであっても「鮮度」の足りないケースが多い。常に激烈な生存競争が繰り広げられている野生動物の世界では、留まることなく状況は変化している。そのため、少しの時間差がもたらす影響は大きい。しかも、細かい撮影ポイントに関する知識は現場の人間しか知り得ず、文字情報化されていない場合がほとんどなのだ。

 そんな現場の生の情報を手に入れるにはどうすればよいか?手段は2つ。ひとつは自らフィールドの中で長い時間を費やし、走り回り、さまざまな自然のサインを読み取ってデータを経験的に収集していく方法。もうひとつが、他人から直接聞く方法だ。

 周囲に人がまったくいない状況ならば選択肢は前者しかない。しかし、もし現場で似たような関心を持つ人に遭遇したなら、その人物から情報をもらうのはとても有効な手段だ。他者とのコミュニケーションをするかしないかによって撮影の結果が大きく変化し得る可能性がそこにはある。私が「砂漠サイ」の撮影に成功したのも、フィールドで知り合ったナミビア人写真家の助けあったればこそだ。

photo ナミビア、ダマラランドのクロサイ。ニコンF5  AF-S 500mm f4 フジクローム・プロビア100F

 南部アフリカに通い始めて約10年になるが、その間、フィールドで数多くの写真家や自然好きの人々に出会ってきた。多くは今でも良き友人たちだ。彼らには、タイムリーな情報だけでなく、新しい撮影地や、それまで撮影できなかった被写体に関する多くのネタを提供してもらったし、これからも世話になるだろう。

 もちろん、この関係は一方通行であってはならないので、自分が知っている事は出し惜しみせず相手に伝えるようにしている。「情報は力なり」とは自然写真の世界においても動かし難い真実で、その力の源は個人の社会性にあると私は感じている。

 さらに、実利的な関係を差し引いても、友人ができるのはそれだけでうれしいものだし、1日の撮影を終えた後にバーベキューでもやりながら酒を酌み交わすのは大きな楽しみだ。

photo 撮影後にフィールド仲間と「飲みニケーション」。南アフリカ、ジャイアンツカッスルにて。ニコンD200 17-35mm f2.8 1/30 f7.1 ISO400

 最後に一言。海外のフィールドで活動する場合、情報収集やコミュニケーションの要はやはり英語だ。アフリカ大陸にはフランス語やポルトガル語を公用語とする国々も存在するが、そんな場所ですら多くの人間が英語を話す。悲しいかな、我らが母国語は極東の小国でしか通用しない辺境言語であって、ひとたび海を越えてしまえば何の役にも立たない。世界の共通言語は「笑顔」ではなく「英語」なのだ。

著者プロフィール

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山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

【お知らせ】山形氏の新著として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが出版されました。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)


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