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“Auto110デジタル”じゃダメだ――「PENTAX Q」誕生秘話(1/2 ページ)

» 2011年08月16日 11時25分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 ペンタックスが8月31日より販売を開始する「PENTAX Q」は、新開発「Qマウント」やミラーレス構造などを採用し、「世界最小最軽量」を実現したレンズ交換式デジタルカメラだ。

 レンズ交換式としては小型のセンサー(有効1240万画素 1/2.3型裏面照射型CMOSセンサー)を搭載する画質や、「高性能シリーズ」「ユニークシリーズ」と2ラインが用意されるレンズの描写などにも興味は尽きないが、そもそも、なぜ「PENTAX Q」という新システムの開発に踏み切ったのかも同様に興味深い。

photophoto マーケティング統括部 商品企画グループ 主任企画員の若代滋氏

 そこで、新製品についてアクセサリーに至るまでの商品企画全般を担当した、同社マーケティング統括部 商品企画グループ 主任企画員の若代滋氏に開発の経緯から今後の展望まで、PENTAX Qの詳細について尋ねた。

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――ペンタックスの小型カメラといえば1970年代にヒットした、フィルムカメラ「Auto110」の存在があります。PENTAX Qはこのデジタル版を意識して企画されたのでしょうか。

若代氏: そもそも「小さいけれど本格的」なデジタルカメラを作りたいという機運はかなり昔から社内にありました。私は2003年に商品企画のチームへ参加しましたが、その時にAuto110の存在を知って――レンズ交換のできる本格的なカメラなのにとても小さい。これがデジタルだったらもっとおもしろい――と、感じた記憶があります。

 社内のものに話を聞くと、既に2000年ぐらいにAuto110へデジタルカメラの撮像素子を搭載した試作機、まあ、これはボディからケーブルが垂れ下がる実験機のようなものだったのですが、こうしたものを作った開発者がいたと聞いて、また驚きました。

 このように、小さいものを作りたいという話は常に社内にありました。ただ、当時はKシリーズの開発も進行していましたので、すぐにそちらへリソースを割くというのは現実的ではなかったのです。ですが、2009年ごろでしょうか、ユーザー層の変化が見え始めました。

 それまで、デジタルカメラ利用者の8割はフィルムカメラの経験者でしたが、そのころから、初めてのカメラがコンパクトデジタルカメラで、そろそろ本格的なカメラへステップアップしたいという人が増えてきたのですね。また、画像処理エンジンの進化や小型低ノイズを実現できる裏面照射型センサーの登場など、「小さくて本格的なカメラ」を作れる技術的な土壌がそろってきたのもこのころです。

 「Auto110のデジタル版では懐古主義でダメだ」という社内の声もありました。ですが、懐古主義だけではなく、技術の進歩、ユーザーニーズの多様化などさまざまな要素が絡み合って、PENTAX Qの製品化が決定したのです。

 Auto110のデザインをヒントに作られた製品としては「Optio I-10」がありまます。街中で若い女性がI-10をカメラケースへ入れてぶら下げているところを多く見まして、レトロなデザインがカワイイとか、デザインがいいとか、そうした要素からのヒット、いうなればデジカメを使うユーザー層の変化が起こっていることを実感させてくれました。

photophoto 「Optio I-10」

――「小さくて本格的」の要素としては何が欠かせないと考えたのですしょうか

若代氏: 本体サイズへ大きな影響を与えてしまうセンサーサイズについては、Auto110で使っていた110判フィルムのサイズ(17×13ミリ)がフォーサーズ規格の撮像素子サイズ(17.3×13ミリ)とほぼ同じ大きさですから、それより大きなサイズはないかなと考えました。

photo PENTAX Qのセンサーはソニー製 有効1240万画素 1/2.3型裏面照射型CMOSセンサー

 デジタルカメラの撮像素子はフィルムに比べて解像性能が高いですから、フォーサーズのセンサーでレンズの解像性能を出そうとするとレンズが大型化してしまいます。元々ボディだけでなくレンズも小さくしたいという考えがありましたので、最終的にはコンパクトデジカメで使われるサイズのセンサーを採用することにしました。

 ですが、開発側からは小さな撮像素子を採用することで全体のサイズダウンを図りたいという声がある一方、レンズを含めた光学設計のためにより大型の撮像素子を採用するべきという声もあり、センサーサイズをどうするかについては多くの議論がありました。

 ちなみに、今回は1/2.3型の撮像素子を採用していますが、仕様的には若干の撮像素子サイズ(イメージサークルサイズ)変更を許容できるようになっています。マウント直径は定めていますが、撮像素子のサイズについては部材供給の変化などに対応できるということです。

 「本格的」を定義する際、レンズ交換も欠かせない要素と考えました。Optio I-10はコンパクトデジカメというカテゴリ内でデザイン面での差別化を図りましたが、いわゆる“一眼の魅力”としてはレンズ交換もあると思いますからね。

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