南部アフリカのナミブ砂漠は、その雄大な風景を求めて世界中の写真家が訪れる地だ。この世のものとも思えない茫漠(ぼうばく)とした砂の世界で、刻々と変化する幻想的な光と影のコントラストを目の当たりにすると、心が弾んでついついシャッターを切り過ぎてしまう。
しかし、厳しい自然環境であるが故に、撮影の障害となる問題も多い。その最たるものはやはり砂ぼこりだ。少しでも風が吹くと砂ぼこりが舞い上がり、機材のありとあらゆるすき間に入り込んでくる。ピントリングやモードダイヤルのような可動部分はすぐジャリジャリになるし、密閉性の悪い前玉繰り出し式のズームレンズなどは、たちまち光学系がホコリだらけになり画質が低下する。
デジタルの世になってからは、砂ぼこりの問題に対してさらに敏感にならざるを得なくなった。イメージセンサーに付着した砂は一粒残らず写真に移り込んでしまうからだ。まして風景写真では、絞り込むことが多いので尚更だ。無数のセンサーダストがちりばめられた画像は、後処理が実に面倒臭い。最近のカメラには超音波でセンサー上の付着物を落とす機能がついているが、これも決して万能とは言い難い。
では、砂ぼこりの問題にどう対処するかというと、第一に極力レンズを交換しないように心がける。その上で、なるべく砂をかぶらないように市販のレインカバーを常用する。しかし、砂嵐が頻発する場所ではこれでも不十分で、カメラをレンズ先端だけ残してラップでくるむという非常手段を用いねばならない。操作の面でいささか不便ではあるが、こうすることで砂による機材の外装への被害も食い止められる。と言うのも、強風の日は飛ばされてくる砂粒の勢いも強いため、有り難くもない天然サンドブラスト加工が施されてしまうのだ。
ことはカメラ/レンズだけの問題ではない。例えば三脚も大きな被害を被る。ロックナットを回して脚を伸縮、固定する機構を採用しているものは特に要注意だ。ナットのすき間に砂が入り込み、あっという間にネジ山が削れてしまうからだ。回転を滑らかにするためのグリースも、砂粒を吸着してしまうので被害を拡大する原因のひとつとなる。これと言った防護策がないため、三脚に関しては頻繁な分解清掃が必要となる。
砂漠で直面するもうひとつの問題、それは極端な気温の変化だ。日光を遮る雲がほとんど発生せず、植生もまばらなため、昼間は酷暑、明け方には一気に氷点下という日もまれではないのだ。このような気候はカメラに優しくない。
まず寒さ。夜間や早朝の撮影では、低温によってバッテリーの性能が著しく低下する。ただでさえ暗い時間帯は、電力消費量の多い長時間露光が中心であるため、バッテリー残量は見る見るうちに減ってしまうのだ。仕方がないのでスペアのセットをポケットの中で温めておき、交互に使用する。
太陽が登ると今度は気温がもの凄い勢いで上昇する。カラハリ砂漠の真夏(南半球なので1〜2月ごろ)の最高気温は45度を上回るくらいだ。これはこれでよろしくない。特に高温下で直射日光にさらされた黒いカメラボディは、熱をどんどん吸収し、酷い時には上部の液晶画面が真っ黒になってしまう。この現象は温度を下げれば解消はするのだが、撮影中に設定表示が読めなくなるのは非常に困る。日傘が欲しいところだが風で飛ばされるし、カバーをかけると逆に熱がこもってしまうので、ある程度はあきらめるしかないのが実状だ。他にも高温によってグリップゴムがはがれるなどの問題が発生する。
砂漠での撮影は、何かと機材への負担が大きく、写真を撮っている本人も楽ではない。それでも数多の写真家があの砂だらけの世界を訪れて止まないのは、他にはない独特の魅力があるからだろう。
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
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