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» 2012年05月22日 10時49分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:南アフリカで骨を主食とする鳥、ヒゲワシを撮る

アフリカ大陸の南端からユーラシア大陸にかけての高山地帯には、ヒゲワシと言う名の、骨を主食とする奇怪な鳥が生息する。南アフリカにあるジャイアンツカッスル(巨人の城)にはこのヒゲワシを撮るための撮影小屋がある。

[山形豪,ITmedia]

 ヒゲワシ(学名:Gypaetus barbatus、英名:Bearded Vulture)はその名の通りアゴにまるでヒゲのような羽がある猛禽類の一種である。翼を広げると、端から端までの長さが3メートル近くにもなる巨大な鳥だ。

photo ヒゲワシはその名の通り、アゴにヒゲのような羽を持つ。ニコンD300 AF-S 500mm f4 TC-14E 1/3200 f5.6 ISO800

 以前ハゲワシの死肉食について(山形豪・自然写真撮影紀:ハゲワシという鳥の存在意義)書いたが、ヒゲワシの食性はさらに特化しており、他の生きものがあらかた肉を片付けた後に残った骨だけを食べる。しかも、大型草食獣の大たい骨など、大き過ぎて飲み込めないものは、空中に持って上がり、下方の岩めがけて落として割るという特異な習性の持ち主でもある。こうすることで、他の鳥や動物が食べられない骨髄という栄養豊富な食料にありつけるのだ。

 標高が高く岩場の多い山岳地帯を好み、広大なテリトリーを必要とするため、その数はあまり多くない。アフリカ大陸では、南アフリカのドラケンスバーグ山塊、東アフリカのキリマンジャロやケニヤ山、エチオピア高原などに生息し、ユーラシア大陸においては、ピレネー山脈やヒマラヤ山脈といった高山地帯に分布する。

 そんな中で、南アフリカのドラケンスバーグにあるジャイアンツカッスル(巨人の城)と呼ばれるエリアは、ヒゲワシを撮るのに最高の場所だ。多くの鳥好きにとって実に魅力的な被写体であるため、世界各国から写真家やバードウォッチャーが訪れる。かく言う私も何度か通ったくちだ。

photo ヒゲワシの住処(すみか)である南アフリカ、ドラケンスバーグの山々。ニコンD300 AF-S VR 70-200mm f2.8 1/4000 f5.6 ISO 800

 ジャイアンツカッスルの最大の特徴は、このヒゲワシを撮るために建てられた常設の撮影小屋がある点だ。通常、野鳥の待ち伏せ撮影には仮設のブラインドを用いるが、寒風吹きすさぶ高山地帯で簡易テントの中にこもり続けるのは、居心地が極めて悪い上に風に飛ばされる危険が生じる。さらに、気配を消すために極力身動きを避けねばならず、かなり忍耐力を要する活動である。

photo カラスに追いかけられながら、大きな牛の骨を持って飛び去るヒゲワシ。ニコンD300 AF-S 500mm f4 1/1000 f8 ISO800

 そこへ行くと、ジャイアンツカッスルの撮影小屋は石とコンクリートで作られた極めて居心地の良い建物だ。しかも中にいる人間の姿が見えないように窓ガラスがマジックミラーになっているため、多少動いたくらいで鳥に感づかれたりはしない。熱いコーヒー片手にのんびりとヒゲワシがやって来るのを待つという、何とも優雅な撮影が可能だ。内部には常時6人程度が楽に座れるスペースがあり、600mm/F4クラスの長玉を外に向けられる小窓があるなど、撮影機材の設置に関しても配慮がなされている。

photo ジャイアンツカッスルの撮影小屋。ニコンD300 シグマ 10-20mm f4-5.6 DC 1/320 f11 ISO800

 この小屋は風の通り道となっている谷の崖っぷちにあり、窓の外には標高3000メートルクラスのドラケンスバーグの峰々が広がっている。それら急峻な山の断崖絶壁がヒゲワシのねぐらだ。朝、太陽に温められた空気が上昇気流になると彼等は空に舞い上がり、動物の骨を求めて広大なエリアをパトロールする。当然、骨のない場所には降りてこない。従って撮影小屋の近くまで降りてきてもらうには手土産が必要となる。

 普段用意するのは、肉屋で廃棄される牛の骨だが、ごくまれに付近の牧場で死んだ家畜が手に入る。これは腐りかけでもあるので、鼻がひん曲がるほどのすさまじい悪臭を放つがその効果は絶大で、ヒゲワシ以外の猛禽やジャッカルなどの肉食獣も呼び寄せてくれる。

 鳥が降りてきてほしい場所にエサを設置したら後は気長に待つだけだ。だいたい最初に現れるのはケープハゲワシという鳥で、彼らが肉をあらかた片付けたのを見計らってヒゲワシが降りてくる。条件が良ければ、毎日姿を現してくれるが、悪くても3日に一度くらいはやってくる。

photo 翼を全開にして着陸態勢に入るヒゲワシ。ニコンD300 AF-S 500mm f4 1/2000 f5.6 ISO500

 ただし、その時々の風向きや天気によって、進入方向や降下角度が異なるので、望み通りのアングルで撮影ができるとは限らないし、光の状態だって常に変化する。従って、納得のいくショットを収めるには多くの時間と根気が不可欠だ。同じ場所に何度も通い、撮り損ねや撮り逃しを散々繰り返した後で、やっと成功するというのが自然写真の世界なのだ(いくらやっても成功しないひともいるにはいるが……)。

著者プロフィール

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山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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