ワイコンやテレコンというアクセサリー自体はポピュラーなものだが、描写を含めたWCL-X100の作り込みは「ワイコン」という言葉の持つイメージをいい意味で裏切ってくれるものだ。企画の推移や開発の苦労話を富士フイルムに尋ねた。
――X100は2010年9月のフォトキナで発表され、国内では2011年3月に発売されましたが、X100の企画段階からWCL-X100の構想はあったのでしょうか。あったとすれば、マスターレンズを設計する時点で、ワイコンの用意を想定していたのでしょうか。
河田氏: フォトキナで発表した際、(固定焦点ということもあって)コンバージョンレンズの要望が寄せられました。そのリクエストを受ける形で企画はスタートしましたが、「X100の光学性能を変えず」というに命題を守るため、製品化に時間がかかってしまいました。X100の発売から1年以上の時間はかかってしまいましたが、性能を重視したためとご理解頂けると幸いです。
近藤氏: あくまでも23ミリ(35ミリ換算35ミリ相当)で良好なパフォーマンスを得ることがX100の目的ですから、マスターレンズはワイコンを想定せずに設計されています。
宮城島氏: ですが、WCL-X100はX100のマスターレンズを設計した者と同じ者が設計していますので、諸収差やレンズのクセといった部分も継承されています。「装着しても変わらない」というのが、WCL-X100の目標のひとつでもあります。
河田氏: 絞り開放でのボケ味やピントのシャープ感など、描写面へ手を入れることも可能だったのですが、あえてX100の味ということで変えないようにしています。
近藤氏: なので、WCL-X100を装着した状態でも、開放の近接撮影時に柔らかい画になるというX100の傾向は変わっていません。
――装着時28ミリ相当という焦点距離はどのように決定したのでしょう。また、焦点距離の異なる固定焦点レンズを備えたX100のバリエーションモデルという企画はなかったのですか。
近藤氏: 28ミリか24ミリかという議論はありました。ですが、24ミリでは求める性能を出すためにある程度の大きさが必要ということも分かり、性能と装着時のバランスも考慮した結果、28ミリとしました。
河田氏: X100の発売から1年以上の時間が経過してからの発売となりますし、装着してもX100のスタイル、たたずまいを変えないようにしたかったという気持ちもあります。あと、X100のバリエーションモデルですが、デザイン・サイズ・画質のトータルバランスを考えると、非常に難しいと思います。現状のワイコン装着が、用途・性能含めて最適な使い分けだと考えています。
――X100に用意されている撮影メニューの「ワイドコンバージョンレンズ」をオンにすると、歪曲収差と周辺減光、色収差の補正がJPEG画像に対して行われます。これはオフにすることも可能ですがその狙いは。また、オフの状態で記録された補正なしのRAW画像に対して付属のSILKYPIXならば補正を後から行えますが、LightroomやPhotoshop CS、Apertureなど他のソフトでも対応は期待できるのでしょうか。
河田氏: レンズ交換によって描写が変わるよう、メニューのオン/オフで描写が変わることを楽しんで頂きたいと思っての設定です。あと、LightroomやPhotoshop CS、Apertureでの補正ですが、これは他社さんのことなので……。もちろん、当社としては前向きに検討していきたいと考えています。
――3群4枚のレンズ構成やスーパーEBCコーティング、専用つまみ式のレンズキャップなど、アクセサリーというには豪華な仕様ですが、「アクセサリーならば低価格で」という意見はありましたでしょうか。
河田氏: 「高品質ではなく、気軽に購入できる価格設定を目指す」という意見もありましたが、それではX100という製品のコンセプトとはズレが生じてしまうことにもなりかねません。そこで、「ワイコン」という言葉に対する挑戦というと言い過ぎかもしれませんが、画質を最優先し、なおかつ、外装や付属品にもこだわった仕様にすることにしました。
宮城島氏: 設計側としては「画質を最優先」という方針はうれしいものですし、持つ喜びという部分まで方針が保たれているならばなおさらです。レンズの部材も小型化と描写性能を両立するために高級なものを利用していますし、外装もX100のレンズ鏡胴と同じアルミ素材を採用し、同様の処理を施しています。
ですが画質最優先、そして、X100の性能をスポイルしないという目標のためには多くの苦労もありました。
まずは目標とする性能をこのサイズで実現するために多くの試行錯誤がありましたし、ワイコンは構造的にゴーストに弱くなりやすいので、入射角が変わっても対応できる新しい表面処理を開発することで対応しました。このコーティングは基本的な内容こそX100のスーパーEBCコーティングと同一ですが、新バージョンのコーティングと呼べるものなのです。
宮城島氏: 外装についても、X100用レンズフード「LH-X100」やプロテクトフィルター「PRF-49S」を流用可能とし、なおかつ装着時の一体感が失われないようにするため、細部の調整には時間をかけました。それにX100の大きな特徴でもあるハイブリッドビューファインダーでOVFを利用する際、視野を大きく制限しないよう各所のバランスをとることにも注意を払いました。
――装着して驚いたのが、四隅まで非常にシャープな描写をすることでした
近藤氏: いわゆるサードパーティはマスターレンズのデータを持っていませんが、私たちにそれがあります。それに装着元が固定焦点レンズならば1点にあわせての設計が可能なので、四隅のシャープさなど、より追い込んだ作り込みが可能なのです。
先ほどご説明したよう、WCL-X100を装着した状態でもX100としての描写やレンズの味といったものは変わりません。装着時のスタイリングも含め、35ミリと28ミリ、2つの画角をシームレスに味わえる「もう1本の交換レンズ」として楽しんで頂けるはずです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR