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» 2012年12月25日 11時19分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:ハイエナのお味はいかが?

肉食獣が草食獣を捕食することが当たり前のアフリカの野生環境。では、死んだ肉食獣は誰が食べるのか?

[山形豪,ITmedia]

 今年の8月15日早朝、南アフリカのカラハリ砂漠で撮影をしていた私は珍しい光景に出くわした。死んで間もないブチハイエナの死体に遭遇したのだ。

photo 最初にやってきたケープガラス。 南アフリカ、カラハリ・トランスフロンティア・パーク。 ニコンD4、AF-S 500mm f4、1/1250 f9 ISO800

 この日は南アフリカとボツワナにまたがるカラハリ・トランスフロンティア・パークのメインキャンプを出発し、北東へと車を進めていた。しばらくして、向こうから知り合いの南アフリカ人写真家がランドローバーでやってきた。あいさつを交わし情報交換をする中で、数キロ先にブチハイエナの死体が転がっていると彼が教えてくれた。付近一帯を縄張りにしているライオンたちに殺されたばかりとのことだった。

 10分ほど車を走らせると、情報通り若いブチハイエナの死骸が道の東側に横たわっていた。外見上無傷であったことから見て、ライオンがハイエナにエサとしての関心を持っていなかったの明らかだった。競合他種である肉食獣は殺すだけ殺しておいて、そのまま立ち去っているわけだ。しかし、他の獣たちはどうだろう?肉食獣だって死んでしまえばそれも“肉”なわけで、死肉漁りのエキスパートたちがこの界隈にはたくさんいる。待っていれば色々な動物がやってくるだろうと思った私は、一日この場で張り込むことにした。何しろ死んだばかりの肉食獣に出くわすなど滅多にない出来事である。

 私の考えでは、上昇気流の発生とともに、目ざといハゲワシたちが舞い降りてきて、あっという間にハイエナをバラバラにしてしまうはずだった。ところが予想に反してかなり長いこと何の音沙汰もなかった。昼近くになって、やっと姿を現したのはケープガラスだけだった。どこの町にでもいるカラスにあまり興味はないので、かなりがっかりした。しかもカラスは力が弱いため、自力で動物の皮を食い破ることはできない。しばらくあちらこちらをつついていたが、らちが明かなかったようで、眼球だけを食って去って行った。

 さらに待つこと2時間半。気温はぐんぐん上昇し、倦怠(けんたい)感に満ちた午後の時間帯になった。動物たちの活性が最も下がるころ合いだ。こちらの注意力もなくなり、睡魔と格闘している最中にようやく動きがあった。ぼやけた視界の先、茶色い薮の中に何やら動く影が見て取れた。ダルさを振り切り双眼鏡を覗くと、何とカッショクハイエナだった。私のテンションは一気に急上昇した。このハイエナはブチハイエナよりもはるかに数が少なく、生息域も南部アフリカの乾燥地帯に限定されている種である。

 昼間活動することのあまりない動物だが、恐らく死体の放つ臭いに引き寄せられたのだ。夢中でシャッターを切っていると、相手は周囲を警戒しながらも徐々に横たわる死体に接近してきた。もしやハイエナがハイエナを食う瞬間が撮れるのではと、期待が膨らんだ。ところがカッショクハイエナは毛を逆立て、緊張しながら臭いをかいだだけで、かじりもせずに立ち去ってしまった。肩すかしをくらったような気分だった。

photo 臭いだけかいで去って行ったカッショクハイエナ。 南アフリカ、カラハリ・トランスフロンティア・パーク。ニコンD4、AF-S 500mm f4、1/2000 f7.1 ISO640

 再び何も起きない時間帯が続き、陽が西へ大きく傾いた午後4時前、ようやくセグロジャッカルが一頭やってきて、ハイエナの脇腹をかじり始めた。ところが、ハイエナの毛皮は実に頑丈で、鋭い歯を持った犬科のジャッカルですら簡単には食い破れなかった。15分ほど格闘した末、ようやく脇腹の部分に穴が開いた。ここまでくれば、ハゲワシたちも集まってきて、大騒ぎになるだろうとの予想はまたしても外れ、ジャッカルも多少の肉は食べたものの、そそくさと姿を消してしまった。

 そうこうしているうちに、陽が地平線に近付き、キャンプに帰投せねばならない時間になってしまった。しかしキャンプにいる間も、その後の展開が気になって仕方がなかったので、翌朝一番に同じ場所に戻ってみた。流石に骨だけになっているだろうと想像していたが、何と前日とほとんど変わらない姿のままハイエナはそこに横たわっていた。ダルマワシが二羽乗っかって、ジャッカルが食い破った箇所から何やらついばんではいたが、それも喜び勇んでというより、ためらいがちに一口二口といった程度で、普段、猛禽類がエサを食べる時とはまるで様子が違っていた。

photo 脇腹を食い破ろうとするセグロジャッカル。 南アフリカ、カラハリ・トランスフロンティア・パーク。 ニコンD4、AF-S 500mm f4、1/2000 f9 ISO1000
photo 2日目の朝、ブチハイエナを食べるダルマワシ。 南アフリカ、カラハリ・トランスフロンティア・パーク。 ニコンD4、AF-S 500mm f4、1/800 f11 ISO1000

 もしこれが草食獣の死体であったなら、丸一日以上原型を留めたまま同じ場所に放置されるなどあり得ない。そもそもライオンが食べずに放っておくことはないし、仮に死因がライオンではなく病気であったとしても、ありとあらゆる肉食動物が集まってきて、死後数時間で骨だけになってしまうのが普通だ。

 どうやらブチハイエナというのは相当マズい生き物のようである。

著者プロフィール

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山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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