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» 2013年01月23日 12時22分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:野生の楽園 オカヴァンゴ・デルタをカヌーで行く

野生の楽園として世界的に知られるボツワナのオカヴァンゴ・デルタを体感するにはカヌーによるキャンピング・サファリがお勧めだ。

[山形豪,ITmedia]

 もう随分前の話になるが、私はボツワナのオカヴァンゴ・デルタを撮影のため訪れた。通常、デルタとは川が海に注ぎ込む時に形成される三角州のことを指す。しかしオカヴァンゴは世界でも珍しい内陸性のデルタで、その水は海にたどり着かずに蒸発とカラハリ砂漠の砂による吸収で消えてしまう。

 Google Earthで南部アフリカを見るとよく分かるが、ボツワナの北西部から南東方向に向かって、扇形に広がる湿地帯がそれだ。野生動物の楽園としても知られており、ケーブルテレビのアニマルプラネットやナショナルジオグラフィック・チャンネルにもこの場所はよく登場する。

 そんなオカヴァンゴの大半はモレミ野生動物保護区の一部として管理されているため、ほかの保護区同様、人の活動に関してはさまざまな規制がある。ところが、デルタの北部は保護区外である上に、比較的安価なキャンピング・サファリを提供する会社があるため、ロッジに泊まる高級サファリとはまったく違う、自由度の高い、真に「ワイルド」な体験が可能なのだ。

このサファリの最大の特徴は、何と言ってもその移動手段。広大な湿地帯であるオカヴァンゴの大部分は、車での移動が不可能だ。また、水深が浅く、生い茂るアシやハス、パピルスなどが妨げになりモーターボートもほとんど使い物にならない。そのかわりに活躍するのが、モコロと呼ばれる伝統的なカヌーで、これにキャンプ道具や食料、撮影機材を積み込んで移動する。もちろん自分で漕ぐわけではなく、ガイド兼漕ぎ手が面倒を見てくれるので安心だ。

photo サファリで使用されるモコロ(カヌー)。昔は丸木船だったが、現在では樹木を保護するためグラスファイバー製だ。奥に見える濃い緑の部分がキャンプ地となる無人島だ。ニコンD100、AF 18mm f2.8D、1/200、f7.1、ISO200

 朝、起点となる村からカヌーで出発すると、昼過ぎには宿営地に到着となる。と言っても、湿地帯の中に点在する「無人島」で寝泊まりするので、当然周囲には人工の建物はおろか、柵すらもない。そこは正に野生の王国のまっただ中なのだ。島に上陸し、適当な平地を見付けたらそこにテントを張って、木の枝や倒木を集めて火をおこし、目立たないヤブの中にトイレ用の穴を掘ったらキャンプの完成となる。

photo 無人島でのキャンプ設営風景。ニコンD2h、AF 18mm f2.8D、1/60、f7.1、ISO200

 このツアーには決まったスケジュールがないので、その時の状況や気分一つで自由に活動内容が決められる。例えば、朝方は近くの島に行ってゾウなどの陸上動物を徒歩で撮影し、午後はモコロで水上からカバや鳥などを狙うといった具合だ。モコロは中に座ると、目線が水面すれすれまでくる。しかもほとんど音を立てずに進むため、まるで水の上を滑っているようでとても気持ちがよい。撮影に際しても、水面とほぼ同じ高さでカメラを構えられるので、アシに住むカエルや水面に浮く水鳥などを撮影するには最高だ。

photo 葦にしがみつくマダラクサガエル。このように水面に近い場所にいる生物も、モコロからだと撮影が容易だ。ニコンD2h、AF 18mm f2.8D、1/90、f9、ISO200

 ガイドたちはいずれも現地出身者で、動植物やデルタの環境について多くの知識を持っている。また、オカヴァンゴという自然環境に潜むリスクについても熟知しているので、こちらとしては安心して撮影に専念できる。彼らが言うには、最も警戒せねばならないのはカバだという。

photo 水面に姿を現したカバ。モコロから撮影。ニコンD2h、AF-S VR 70-200mm f2.8、1/160、f7.1、ISO200

 この地域には多くのカバが生息しており、日が暮れると草を求めて活発に動き回るようになるので、暗くなる前に陸に上がっていないと非常に危険なのだそうだ(あまり知られていないが、カバは主に夜行性の動物である)。またキャンプでも、ライオンやカバが近付き過ぎないよう、夜中に何度も起き出して火に薪をくべてくれる。

 地元の人々が案内してくれることで、彼らの文化を体験できるのも、この種のツアーの特徴だ。例えば私が参加したツアーの初日、モコロから風景の撮影をしていると、ガイドの青年はおもむろに漁網を仕掛け始めた。彼らはもともと地元の漁師なのだ。翌日、仕掛けた網を回収すると、ニンブエと呼ばれる魚(ティラピアの仲間)がかかっており、その日採取した蓮の花のつぼみと一緒に炊き込んだ地元料理を作ってくれた。住民による動植物の採取が禁止されていない区域ならではの楽しみだ。

photo 料理用に蓮のつぼみを集めるガイドの青年。ニコンD2h、24-85mm f3.5-4.5G、1/60、f4.5、ISO200、ストロボ

 オカヴァンゴ・デルタを訪れる人の大半は、南側に集中している恐ろしく値段の高い高級ロッジを利用するが、この素晴らしい場所の魅力を本当に体感するのであれば、北部のカヌーによるキャンピング・サファリに勝るものはないと私は思う。ただし、モコロが転覆するケースも皆無ではないので、高価な撮影機材を持って行くのにはいささか勇気がいるが……。

著者プロフィール

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山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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