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» 2013年01月24日 15時00分 UPDATE

矢野渉の「金属魂」Vol.29:デジタルフォトに“1枚の重み”を――愛すべき「ケーブルレリーズ」たち

PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。氏がカメラとともに愛用する4本のケーブルレリーズとは?

[矢野渉(文と撮影),ITmedia]

ケーブルレリーズを知ってるかい

 もしかしたら若い世代の人は、もうこれが何なのかさえ分からないかもしれないね。

 「レリーズ」っていったら、10ピンの電磁レリーズのことだものなぁ。スイッチをピッと押せばシャッターが切れる。レスポンスも最高だしね。でも、そこのところがおじさんには寂しいわけだ。すべてが軽い。軽すぎる。

 おじさんが子供のころの写真は、もっと重々しいものだったんだよ。小学校の集合写真の撮影なんてもう一大イベントでさ、立ち位置が決められると皆直立不動なわけ。

 写真屋さんが冠布をかぶってピント合わせてる間に、助手が絞りとシャッタースピードをセットする(今思うと、あのカメラはトヨフィールドだったかも)。その後にこのレリーズが登場するんだ。写真屋さんはキラリと光るレリーズを自分の頭ぐらいまで持ち上げて「はい、チーズ」。

 助手が両手でささげ持ったフラッシュバルブがベフッと燃えて、それまで息を止めていたみんなが「ハァー」と一斉に息を吐いてさ。

 え? やっぱり使ったことないって? ちょっとこっちに来てみなさい(と身をのりだす)。

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写真生活をともにした4本のケーブルレリーズ

 この先っぽのボタンを押し込むと、ケーブルの反対側から金属の棒がニュッと出るわけね。これが物理的にシャッターボタンを押すわけ。原始的だけど分かりやすいよね。

 これね、ナイロン糸で編んだパイプの中にコイル状に作った金属ケーブルが入ってる。だから曲がった状態でも正確に力が先端まで届くんだ。あと、パイプとケーブルが擦れて、その状態で止まってしまわないように、根元のところにスプリングが仕込んであって、シャッターを切るごとに元の状態に戻るようになってる。これが親指に適度な反発を感じさせてくれるんだね。

 だいたい1センチぐらいかな。シャッターが切れるまでのストロークは意外に長い。ゆーっくり押し込んでごらん、だんだん重くなるでしょ。で、ここ! この辺でシャッターが切れる。ね、「写真撮ったぞー」って感じがしない? 昔はこれが写真の醍醐味(だいごみ)だったわけ。

 電磁レリーズを使っているのに妙に力が入っている人を見たら、間違いなく僕の年代かそれ以上だよ。ほとんどストロークのないスイッチを力任せに押してしまうからねぇ。

 ここには4本しかないし、それぞれの差なんて分からないだろうけど、実はかなり特徴があるんだ。一番奥のがHCL(堀内カラー)オリジナル。全身黒のつや消し仕上げ。僕はこれを4×5専用に使ってた。シノゴはスタジオでのブツ撮りが多かったから写り込み対策ということだね。

 奥から2番目がハクバ(ハクバ写真産業)の製品。これは「ハレ」の日用ね。握りの部分が銀と黒のツートーンで(プラスチックなのはいただけないが)ちょっとおしゃれなんだ。パイプの部分も赤と黒の編み込みで、クラシカルで落ち着いた演出ができる。都議会議員さんのポスター撮影なんかに使ったよ。

 3番目がニコンの「AR-3」。ほぼ完璧な作り。ボタンを押し込んでごらん。ほかのはシュッシュッとワイヤーが擦れる音がするでしょ。でもニコンだけは無音。よっぽど素材にこだわってるんだね。動きがスムーズなんだ。でも、作りが重厚すぎて重い。クロームメッキも他の2倍以上の厚みがあるんじゃないかと思う。シャッターの後に手を離したら、レリーズがカメラを直撃して傷ついたことがあって、それ以来疎遠になってしまった。

 1番手前が、僕が最も気に入っているPRONTOR(プロンター)製。ほかのよりかなり小振りなのが分かると思う。人差し指と中指を引っ掛ける部分を、T(タイム)露出を行うためのストッパーのネジに代用させることによって、全体をダイエットさせているんだ。だから多少乱暴に扱ってもカメラに傷をつけるなどということはない。

 プロンター社はね、ドイツのシャッターメーカーなんだ。シャッターを知り尽くした会社、ということで僕は全幅の信頼を置いている。プロンターのレンズシャッターユニットは、あのハッセルブラッドのレンズに採用されるぐらい優秀なんだよ。

 なんて、昔話をいろいろと並べても今はむなしいね。だってこの、僕が愛した金属たちを使える一眼レフはもうないんだ。最後に使ったシャッターボタンにネジ穴が切ってある機種は、ニコンの「D100」だったかな。最新の機種でアクセサリが装着できる場がなくなったら、彼らはただのガラクタなんだ。

“X”の福音

 ずっとモヤモヤした気分を払ってくれたのは富士フイルムの「FinePix X100」だった。レトロとかいわれてちょっと冷やかされたけど、僕の待っていたカメラはこれだった。なぜならシャッターボタンにネジ穴を切ってあるから。

 これさえあれば、僕のケーブルレリーズたちが最新の、現役の、実用品としてのアクセサリとしてよみがえってくる。

 あまりにもうれしかったので、「FUJIFILM X10」と「FUJIFILM X-Pro1」も買ってしまった。本来サブであるべきアクセサリが購買意欲のメインに来るのも、これはこれで面白いことなのだろう。

 若い君たちにいいたいことは、写真は本当に面白い趣味だということ。一生をかけても惜しくないと思う。ただ、今デジタルでなんでも加工できる写真は本来の写真とは違う。もうちょっと苦労して1枚の写真を撮ってほしいな。

 そのためにもこのケーブルレリーズは必要なんだと思う。写真の、ワンショットの重さを感じるためにもね。

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