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ナミビアへの誘い、その1 エトシャ国立公園山形豪・自然写真撮影紀

» 2013年02月22日 12時09分 公開
[山形豪,ITmedia]

 ナミビアは、砂漠以外にも豊かな自然に彩られており、写真を撮る者には大変魅力的な国だ。

 昨年暮れのNHK紅白歌合戦で歌手のMISIAさんがナミブ砂漠から生中継をするなど、ナミビア共和国という国が日本でも随分と注目されるようになったことをうれしく思う。とは言え、東アフリカのケニヤやタンザニアに比べるとまだまだ知名度が低い。そこでナミビアという国を自然写真家の観点からご紹介しようと思う。

photo 夕暮れ時、力比べをするアフリカゾウのオス。 ニコンD200, AF-S 500m f4, 1/320 f4 ISO400

 ナミビアは南アフリカ共和国の北西に位置する、1990年に独立したばかりの若い国である。それ以前は南西アフリカと言う名で、南アフリカ領の一部として統治されていた経緯があり、もっとさかのぼると、第一次世界大戦終了(1918年)までは帝政ドイツの植民地だった。そのため現在でも一部地域にはドイツの影響を色濃く残しており、ドイツ人入植者の末えいたちが暮らしている珍しい国だ。日本の2倍以上の国土面積を有するにもかかわらず、総人口は約200万人と非常に少ない。様々な魅力を有する国である上に、治安が安定していることもあって、主に西ヨーロッパからの観光客にとても人気がある。

 ナミビアは雄大な風景だけでなく、野生動物が豊富なことでも知られており、国土の北部には動物保護区や国立公園がいくつか存在する。中でもエトシャ国立公園は、その規模や動物の多さにおいて世界的に有名な場所だ。東京都の約10倍という広大な土地に、アフリカゾウ、ライオン、サイ、キリン、チーター、そして無数のガゼルやオリックス、インパラ、シマウマなどが暮らしており、被写体には事欠かない。ただし、大型河川や淡水の湖沼がないため、カバ、ワニ、アフリカスイギュウといった水辺の大型生物はいない。

 この場所の最大の特徴は、サバンナの真っただ中に広がる巨大な塩湖の存在だ。そもそもエトシャとは、現地の部族語で「大きな白い場所」を意味する。乾季に水が干上がると、真っ白な塩の大地となることからこの名がついたのだ。雨期に水が張ると、エトシャ塩湖は南部アフリカで最も重要なフラミンゴの繁殖地ともなる。

photo 雨期にエトシャ塩湖で見られるフラミンゴ。 ニコンD300, AF-S 500mm f4, 1/1600 f10 ISO800

 エトシャ国立公園はアクセスもよく、ナミビアの首都ウィントフックから車で半日の距離とあって、通年多くの観光客や写真家が訪れる。公園内の道路は整備が行き届いており、舗装はされていないものの、車高の低いセダンでも容易にドライブが可能だ。園内にはオカウクエヨ、ハラーリ、ナムトーニという三カ所の宿泊施設があり、いずれの場所にもキャンプ場やバンガロー、売店、レストラン、ガソリンスタンドがそろっている。また、エトシャへ入るゲートのすぐ外には高級サファリロッジも軒を連ねており、予算に応じて様々な楽しみ方ができるようになっている。当然エトシャへのサファリ・ツアーを催行している旅行会社も多い。マラリアなどの熱帯病にかかる心配が全くないのもありがたい。

 撮影に際してのベストシーズンは6月から11月くらいまでの乾季だ。この時期、草食獣たちは水のある所に集まるようになる。それらを狙って肉食獣もやってくるため、水場で待ち構えることでよいシーン、よい被写体に遭遇する確率が上がるのだ。

 地形が平坦で植生がまばらなことも撮影に有利に働く。日の出直後と日没直前の太陽を遮るものが少ないからだ。光が最もダイナミックなゴールデンタイムを活かせるメリットは、写真を撮る上でとても大きい。そして季節ごとの空の表情が多彩なのもこの場所の魅力だ。特に雨期の大嵐がやってきた時などは、実に荒々しい空模様を目の当たりにできる。

photo 地平線に沈む夕日の中のキリン。平坦で植生のまばらな地形がこのような写真を可能にする。 ニコンD2h, AF-S VR 70-200mm f2.8, 1/5000 f8 ISO200
photo 雨期の嵐。ダイナミックな空もエトシャの魅力の一つだ。 ニコンD300, AF-S 17-35mm f2.8, 1/640 f8 ISO500

 ただし問題点もある。例えば、動物が集まる場所の多くは、地層が石灰質の白い岩石で構成されているため、地面からの照り返しがきつい。日差しの強い日には、まるで雪景色を撮影している時のように、カメラの露出がアンダー側へ転ぶため注意が必要だ。さらに、気温が高い時期には猛烈な陽炎が発生するので、被写体までの距離が遠いと、どれだけ正確にピント合わせを行っても写真がぼけてしまう。しかし、これら幾つかの注意点を知っていれば、とても面白い結果を得られるのがエトシャという場所なのだ。

photo 水場に集まったシマウマ。乾季の撮影は水場での待ち伏せが効果的だ。 ニコンF5, AF-S 500mm f4, フジクローム プロビア その他データ不明

 最後に、これは宣伝になるが、アフリカ専門の旅行会社「道祖神」の主催で、私がガイドを務めるナミビアへの撮影ツアーが6月に予定されている。ご興味ある方は、道祖神のサイトに掲載されている、「山形豪さんと行く ナミビアの大自然と民俗 11日間」をご覧頂けると幸いだ。

著者プロフィール

山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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