インタビュー
» 2013年05月21日 11時26分 UPDATE

富士フイルムに見る、撮像素子開発の継承と蓄積 (1/2)

デジタルカメラの要のひとつが撮像素子。いまは大型化の波が押し寄せているが、振り返ってみると富士フイルムの撮像素子はいつもアイディアにあふれていた。最新作X100Sの「X-TrasnCMOS II」を元に、同社撮像素子開発の継承と蓄積を振り返ってみよう。

[荻窪圭,ITmedia]

 2012年後半からデジタル一眼レフと同等の大型センサーを搭載したコンパクトデジカメが続々と登場しており、新しいジャンルを形成しつつある。レンズ一体型が欲しいけれども、従来のコンデジは画質面で物足りない、あるいはモノとして物足りない。そういう層をがっちりと捕まえている。

 そんなAPS-Cサイズセンサー搭載コンパクトデジカメの先駆けが、富士フイルムの「FUJIFILM X100」である。フォトキナで衝撃的なデビューを果たしたのは2010年秋(発表時は「FinePix X100」の名称だった)で、その発売が2011年春。

 その後、いち早くローパスレスを実現したレンズ交換式の「FUJIFILM X-Pro1」をリリースし、2013年には像面位相差AFを採用した「FUJIFILM X100S」を発売と、次々と新しい技術をセンサーに取り入れてきた。

photophoto ローパスレスセンサーを搭載した「FUJIFILM X-Pro1」(写真=左)、さらに像面位相差AFを採用した「FUJIFILM X100S」(写真=右)

 ある意味、富士フイルムが他社に先行してきたのは撮像素子の技術とアイデアである。そこを中心に、同社にてFUJIFILM Xシリーズに携わる大石誠氏(電子映像事業部 商品部)にあれこれ聞いてみた。

photo 電子映像事業部 商品部 大石誠氏。2010年のフォトキナでX100の開発発表を行った際、大きな手応えを得たという

大型センサー搭載コンパクトが珍しくない現在

――今でこそ各社よりAPS-Cサイズやそれ以上の大型センサーを搭載したコンパクト(レンズ一体型)デジカメが次々と出ていますが、X100を出したときそういう未来は予見してたのでしょうか?

大石氏: 期待はしていましたが、想像はしておりませんでした。結果的にそうなったというのが正しいですね。我々は単純に画質がいい、スナップカメラの最終形態といえるような製品を開発したいと思っていただけです。

 2010年のフォトキナで開発発表として初めて披露したとき、わたしもその場にいたのですが、初日のお客様の反応がすごくて、これは絶対に製品としてリリースすべきだと感じたのを覚えてます。各メーカーが出してくれてジャンルとして盛り上がっている状況はすごくうれしいです、その手助けになれたという意味では大きな製品でした。

――X100の開発に際し、始めからセンサーの大きさはAPS-Cサイズを予定していたのですか?

大石氏: 最初からAPS-Cサイズが選ばれていたわけではありません。わたしたちが目標とする画質を実現するために必要なモノは何かをシミュレーションした結果、マッチングとしてはAPS-Cサイズでこのレンズという組み合わせが最高の画質を得られるということになったのです。X100はベイヤー配列フィルターを備えたセンサーですが(後継製品のX100SはフィルターレスのX-TrasnCMOS II)、登場時点では相当に高画質なカメラに仕上がったと自負しています。

――いわれてみればX100はベイヤー配列のCMOSセンサーでしたね。それがX-Pro1でX-Trans CMOSという新しいセンサーになりました。これもまた最近増えてきた「ローパスフィルターレス」という潮流を先取りした格好と言えますね。

大石氏: X100は専用レンズとのマッチングを考えて設計したとはいえ一般的な構造のCMOSセンサーを使ってました。そしてレンズ交換式カメラを出すとなると、どのレンズにも対応できる実力が必要になります。その中で「ローパスフィルターは本来なくてもよいのでは?」という意見が出始めました。個人的には、ローパスフィルターで失われていた部分は立体感が出やすい部分だと思っていまして、そこで落としてしまうディテールはすごくもったいないと感じていました。

 でも、ご存じの通り、ローパスフィルターを外すと高周波部分でモアレが出やすくなってしまいます。でも開発メンバーのひとりが、「こういう考えで設計すれば、理屈上ローパスフィルターがなくてもモアレがでなくなる」という提案をしたんです。彼は古くからの技術者で、スーパーCCDハニカムの時代からずっとセンサーを開発してきた人間でした。

「スーパーCCDハニカム」から「X-Trasn CMOS」へ

――スーパーCCDハニカムとは懐かしい。そういえばスーパーCCDハニカムも今回のX-Trans CMOSも、センサーが斜めに配列されてますよね。

大石: スーパーCCDハニカムは、センサーを斜めに並べることで、従来の配列より縦横の解像力が約1.4倍に伸びるはずという理論の元に開発されました。その後登場したEXRセンサーもそのハニカムをベースにしてます。

 話は少々飛びますが、なぜ銀塩フィルムにモアレや偽色が出ないかというと、フィルムはアナログですからランダムなんですね。デジタルですと撮像素子の配列が規則的ですから、白と黒と細かいチェック模様などを撮るとモアレが出てしまいます。それは規則的な画素配列に起因してます。

 技術的にはセンサーの各ラインに対してRGBの画素があるのが理想なのですが、通常のベイヤー配列は、RとGが交互に並ぶラインと、BとGが交互に並ぶラインが順番となります。普段は周りの信号から色を補完すればいいのですが、画素ピッチより細かい部分はそうはいきません。

 例えば、Rの画素がないと赤成分がどのくらいあるか分からないのでうまく絵を作れないのです。その結果が偽色につながります。画素が足りないとうまく色を補完できなくなるから偽色が発生するのです。輝度差が大きく細かい白黒模様にでるようなモノがまさに偽色やモアレになります(本段落において内容に一部誤りがありましたので、当該カ所を訂正させて頂きました。2013/5/23 18:50)。

 そこでX-Trans CMOSは画素を斜めに配置した上に、6×6の画素で絵を作るため常にRGB成分がそこにあるようにしました。完全なランダムではないので、銀塩フィルムのように完全にゼロというわけではありませんが、従来の光学ローパスフィルターを搭載したカメラよりモアレや偽色は出ません。

photophoto X-Trasn CMOSはローパスフィルターを廃し、画素を6×6の配列で並べた。6×6配列では常に各行列にRGBが存在するため補間処理での失敗が減り(=偽色などの発生抑制)、結果としてローパスフィルターを使わないセンサーとしての製品化を可能とした(International CESにてX-Pro1発表時のプレゼンテーションより)

――新しい配列のセンサーとなると開発も大変だったかと思います。

大石: X-Trans CMOSが実際に理論通りの結果を生んでくれるか、その検証には長い時間がかかりました。技術的観点から落とし穴はないかもそうですし、理論的に大丈夫でも実際のセンサーはアナログ技術の世界ですから作ってみると想定通りにいかないということもあります。ですからあらゆる条件を与えてコンピュータ上でシミュレーションを行い、検証した上で作って見ました。そのときはものすごい緊張感がありましたが、やるしかないだろうと。

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