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» 2013年05月22日 20時46分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:アフリカでアウトドア用品は買えるのか

キャンプ生活をしながら撮影をするアフリカのフィールドでは、テントの存在は極めて重要だ。そんなテントを破壊される「事件」が昨年発生した。

[山形豪,ITmedia]

 去年の8月末、南アフリカのカラハリ砂漠で撮影を行っていた時のことだ。夕方キャンプに戻ると、テントのフライシートの前半分がビリビリに破かれてなくなっていた。最初は誰かのたちの悪いいたずらかとも思ったが、破られ方がかなり丁寧な上、地面を見渡しても布の切れ端がどこにも落ちておらず、足跡も皆無だったことから、人の仕業ではないという結論に達した。

photo カラハリ砂漠で破かれたフライシート。15年使い続けたこのテントはノースフェイスのタッドポール(おたまじゃくし)というモデルだった。 ニコンD700, AF-S 24-70mm f2.8, 1/15秒 f5 ISO2500

 折しも南半球は春の始め。多くの動物や鳥にとって恋の季節、繁殖期であった。鳥類のオスなどは多くの場合、精一杯アピール度の高い巣を作り、メスの気を引こうと必死になる時期だったのだ。布地がすべて持ち去られていたことから見ても私のテントは、そんな生き物にとって格好の巣材を提供したらしかった。

 ただでさえ砂漠は樹木や草が少ないため、良質な巣材の確保が難しい。そんな状況にあって、そんじょそこらの枯れ草などより遥かに優れた材料が見付かったと、謎の生物は大喜びしたのであろう。

 では、キャンプ内で他にも同様の被害が発生していたかというと、それはなかった。実は私のテントは購入してから15年が経過しており、アフリカの強烈な太陽光に曝され続けた結果、リップストップナイロンの繊維は著しく劣化していて、非常に破れやすい状態だったのだ。

 それまでにもリスにかじられたり、ヒヒに引っ掻かれたり、レイヨウに角で突かれたりして、そこかしこに細かな穴があったので、布地を引き裂くのに都合がよかったようなのだ。「リップストップ」、すなわち「破れ防止」がうたい文句であるはずの素材が、正にこの破るという行為の対象になった事実には、正直なところ笑ってしまった。

 しかし、テントはフィールドで生活する上で、最も重要な道具のひとつであるため、事態は深刻でもあった。フライシートは砂嵐や大雨に見舞われた際の防護壁である。また、夜露でテントの中がびしょ濡れになるのを防ぐ役割も果たすため、なくてはならないのだ。

 かかる問題に見舞われたのがアフリカの他地域にいる時であったなら、途方に暮れてしまっただろう。そして、恐らくスーパーのビニール袋をガムテープか何かで切り貼りして必死に対処したはずだ。だが南アフリカは知る人ぞ知るアウトドア大国であり、大きな街ならばテントくらいは容易に入手できる。意外に思われるかも知れないが、南アではサファリを始め、アウトドアライフがレジャーとして非常に盛んなのだ(ただし、これは主にヨーロッパ系南ア人に限定される)。

photo 南アフリカの白人層の間ではアウトドアライフが非常に盛んだ。写真はリヒタースフェルト国立公園のキャンプサイト ニコンD4, AF-S 500mm f4, 1/100秒 f4 ISO400

 その理由は植民地時代までさかのぼる。アメリカの西部開拓時代と同様、17世紀以降南アフリカにやってきたヨーロッパ人たちは、銃を携え、牛車に乗って内陸部へと侵入し、先住民から土地を収奪しつつ植民地を築いて行った。現在約400万人と言われる白人南ア人の多くは、そんな植民者たちの末裔なのだ。

 彼らは牛車を四輪駆動車に乗り換え、盛んにアウトドアへ出かける。これはレジャーであるだけでなく、伝統行事のような意味合いも持っているのだ。故に、南アフリカには大型アウトドア用品店が数多く存在し、とても発展途上国とは思えないほど品揃えも充実している。しかも、売られているギアの多くが、アフリカの過酷な環境での使用を前提としているため、耐久性がとても高いのだ。

photo 充実した品揃えを誇るケープタウンのアウトドア用品店、アウトドア・ウェアハウス ニコンD7000, AF-S 17-35mm f2.8, 1/30秒 f7.1 ISO800

 そんなわけで、図らずも野生生物の子孫繁栄に貢献したらしい私は、数日後にカラハリ砂漠を後にしてケープタウンへと向かった。そして、大型アウトドア用品チェーンであるアウトドア・ウェアハウス(Outdoor Warehouse)を訪れ、首尾よく展示品処分セール中の2人用テントを1万5千円ほどで入手したのであった。15年使い続けたテントとはお分かれする事になったが、カラハリ砂漠のどこかには、今もリップストップ・ナイロンの上で生まれ育った何者かが、元気で生きているに違いない。

photo 首尾よく1万5千円で入手した2人用テント。南アフリカ、スプリングボックのキャンプ場にて ニコンD4, AF-S 24-70mm f2.8, 1/2000秒 f8 ISO800

著者プロフィール

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山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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