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» 2013年09月27日 16時00分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:アオリレンズをフィールドで使う

アオリレンズは建築や商品の撮影に使われるレンズという印象が強い。しかし、自然写真や街角スナップなどでも結構使えて面白いのである。

[山形豪,ITmedia]

 「ライズ」や「フォール」「シフト」「ティルト」などとその効果を表現される、いわゆるアオリ機能は建築物や商品の撮影に使われるのが一般的で、一般的な用途とは縁遠いように感じられる。しかし、ニコン「PC-E」や、キヤノン「TS-E」のように、一眼レフ用交換レンズながらアオリ機能が組み込まれたものも存在しており、これらはその機動性の高さから、使いようによっては自然写真や旅行写真といった分野でも活躍できるのだ。

 私は現在「PC-E NIKKOR 24mm f/3.5D ED」を使用している。風景写真の分野で使用頻度の高い24ミリの単焦点というだけでもかなり魅力的だが、その上ナノクリスタルコーティングが施されているなど非常に高画質なレンズで、D800のような最新高画素一眼レフとの相性もよい。また、ワーキングディスタンスが非常に短いという特徴も持っており、アオリ以外でも通常の広角レンズとは違う使い方ができる。

 フィールドで最も多用するPC-E NIKKORの機能はライズだ(rise=レンズを上方にスライドさせること)。地平線が延々と続き、空がどこまでも広いナミビアのような土地では、その大きさを広角レンズで表現してみたくなることが多い。しかし、広角ズームで空を多く入れる構図にすると、どうしても地平線が湾曲してしまう。

photo AF-S 24-70mm f2.8の広角側で撮影した画像。地平線が湾曲し、キリンもゆがんで見える。 ナミビア、エトシャ国立公園。 ニコンD800 AF-S 24-70mm f2.8 1/5000秒 f8 ISO800
photo PC-E NIKKOR 24mm f3.5でライズして撮影した水場のゾウ。地平線は真っすぐに写っている。ニコンD800 PC-E Nikkor 24mm f3.5 1/1600秒 f10 ISO500

 また、樹木や垂直な崖、キリンやゾウのような背の高い動物を、カメラに仰角を付けて撮影すると、上がすぼまっているように写るのが悩みの種だ。このゆがみ問題を解消するのにライズ機能が有効なのだ。カメラを水平に構え、レンズを上にスライドさせることで、地平線を真っすぐに保ったまま空を広く入れられるし、直立している動物も、より「自然」に写ってくれるわけだ。

 同じ理由から、建造物をメインに撮る街角スナップでもライズを多用する。この場合は、あらかじめレンズをライズした状態で持ち歩き、撮影時はカメラを水平に構えるように心がけるだけで、建物の壁面がしっかり垂直に写ってくれる。

photo ナミビア、スワコプムントの町に残る20世紀初頭のドイツ植民地時代の建物。アオリを使用せずに撮影。ニコンD4  PC-E Nikkor 24mm f3.5 1/125秒 f16 ISO500
photo 同じ建物をライズを使用して撮影。ニコンD4 PC-E Nikkor 24mm f3.5 1/125秒 f16 ISO500

 ティルト機能も自然写真の現場ではとても有用だ。ティルト(tilt)とは、レンズを前後に傾けることで、本来撮像面の中心に対して垂直に交わるレンズの光軸に角度をつけることを言う(左右に角度を付けるのはスウィング swing)。ピント面や被写界深度を自由に変えられるので、目の前の被写体から遠くの背景まで全てにピントを合わせたい場合などに非常に重宝する。

 ただ、PC-E NIKKORは使用上の注意点がふたつある、まず、アオリ操作を加えると、TTLによる露出が使えなくなる。説明書には、アオリ機能を使う場合、カメラの露出モードをマニュアルにし、アオリを加える前に露出値を計測/セットするようにと書いてある。

 しかし、これだとその都度レンズを元の位置に戻して測光をせねばならず、機動性を重視する街角スナップなどでは、あまり現実的ではない。そんな時、手持ちの露出計が意外と便利だ。もちろん、一番手軽なのは露出計などに一切頼らず、経験と勘だけで露出を決定する方法だ。成功率を上げるには相当な慣れが必要なのは言うまでもないが……。

 もうひとつはライズを加え過ぎると画面上部にケラレが生じる点だが、風景写真などの用途でイメージサークルを端までを使うことはまずないので、レンズに刻まれている目盛りの適正位置を覚えていれば特に問題はない。

 

 このご時世、カメラの自動化は進み、画像編集ソフトを使えばどんなことだってできてしまう。アドビのLightroom 5ならばアオリレンズなど使わずとも、ワンクリックで水平/垂直のゆがみ補正が可能だ。しかし、ソフト上で何でもできるという前提でカメラを握るようになると、写真の撮り方がどんどん雑になる危険をはらんでいるような気がする。

photo 今春に撮影した夜の銀座、数寄屋橋交差点。縦位置でライズを使用。露出はヤマカン。 ニコンD4 PC-E Nikkor 24mm f3.5 1/40秒 f7.1 ISO1600

 やはり写真家たる者、イメージ通りの一枚をその現場で撮りきることを目標にせねばならないと常々思うのだ(結果がついてくるかどうかは別にして……)。その意味で、PC-E NIKKOR 24mm f/3.5D EDのように、フィールドでアオリが使えるレンズは実にありがたい存在だ。

著者プロフィール

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山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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