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低価格望遠ズームがとらえた原色の風景――キヤノン「EF-S55-250mm F4-5.6 IS STM」交換レンズ百景

» 2013年10月11日 11時47分 公開
[永山昌克,ITmedia]

ほぼ無音でスピーディに作動するAF

 ボディ単体で買うべきか、それともレンズキットにするか、あるいはダブルズームキットにするか……。一眼レフを購入する際、誰もが最初に悩まされる問題だ。私自身、人から相談を受けることもよくある。

 あれこれ悩んでいるうちが一番楽しいはずなので、「好きにすればぁ」と突き放したいところだが、その気持ちをグッとこらえながら「ダブルズームキットがいいんじゃね?」と私は答える。理由は単純。ボディと標準ズーム、望遠ズームをそれぞれ単体購入するよりもお買い得だからだ。別にメーカーのまわしものではない。

photo キヤノン「EF-S55-250mm F4-5.6 IS STM」。ボディは「EOS 70D」

 前置きが長くなった。キヤノン「EF-S55-250mm F4-5.6 IS STM」は、APS-Cフォーマットに対応した望遠ズームレンズだ。同社の「EOS 70D」や「EOS Kiss X7i」のダブルズームキットに含まれるレンズでもある。単体で購入するよりどれくらいお得なのかは、自分で調べて楽しんで欲しい。

 35ミリ換算の焦点距離は88〜400ミリ相当。同じ焦点距離を持つ同社のAPS-C用レンズとしては、2007年発売の「EF-S55-250mm F4-5.6 IS」、2011年発売の「EF-S55-250mm F4-5.6 IS II」に続く3代目の製品である。既存モデルからの改良ポイントは、製品名に「STM」とある通り、フォーカシングの機構に「ステッピングモーター」を取り入れたこと。レスポンスや制御性に優れ、多くのミラーレスカメラのレンズにも採用されているモーターだ。

 試用では、ほぼ無音でスピーディに作動するAF性能を実感できた。駆動音が非常に静かなため、実際には動いているにもかかわらず、AF作動に気付かないケースさえあった。DCモーター採用の従来モデルとは異なり、フルタイムマニュアルフォーカスに対応し、AFモードのままでマニュアルフォーカスが行える点や、フォーカス時に前玉が回転しなくなったこともありがたい。

 マニュアルフォーカスの操作は、フォーカスリングの回転を電気的に検知してフォーカシングを行う、電子マニュアルフォーカス式となる。フォーカスリングが止まることなくクルクルと回り続ける動きはあまり好きではないが、これはステッピングモーターの機構上仕方ないところだ。

photo マニュアル(F5.6 1/320秒) ISO400 WB:オート 焦点距離:117mm カメラ:EOS 70D
photo マニュアル(F5.6 1/20秒) ISO500 WB:オート 焦点距離:100mm カメラ:EOS 70D

 最短の撮影距離は、従来モデルの1.1メートルから、本モデルでは0.85メートルへと短縮した。最大撮影倍率については、従来モデルの0.31倍から0.29倍へとスペックダウンしているので、特に接写に強くなったわけではない。とはいえ、取り回しの自由度が向上するので、最大倍率が少し下がったとしても、最短撮影距離が25センチ短くなったことは個人的には歓迎だ。たとえば人物に話しかけたり、子どもをあやしながら、その表情をアップでとらえる際や、狭い室内でスナップなどを撮る場合などは、適度に近寄れるほうが使いやすい。

描写性能と取り回しのよさを両立する

 写りは、ズーム全域で被写体の細部までをきちんと描写する解像感を確認できた。コントラストがやや低いため、シーンによってはメリハリ不足に感じるケースも見られたが、解像感自体はこの価格帯のレンズとしては良好といえる。どの焦点域でもF5.6〜F8あたりが最もシャープで、それ以上に絞り込むと回折の影響で解像感は低下する。

 周辺減光と色収差は、絞り開放値ではそれなりに見られる。ただし、カメラ内の「レンズ光学補正」を「する」に設定することで、これらは気にならないレベルにまで低減可能だ。絞りを絞り込むことでも周辺減光と色収差は抑えられるが、そもそも開放値が暗いレンズなのであまり絞り込むのは現実的ではないだろう。カメラ内補正機能を持たないボディの場合は、RAW現像時に補正するといい。

photo マニュアル(F5.6 1/400秒) ISO200 WB:オート 焦点距離:250mm カメラ:EOS 70D
photo マニュアル(F8 1/400秒) ISO400 WB:オート 焦点距離:250mm カメラ:EOS 70D

 レンズの全長は111.2ミリで、重量は約375グラム。このクラスのレンズとしては標準的な大きさと重さだ。フルサイズ用の望遠ズームに比べた場合には一回り以上小さくて軽く、APS-Cフォーマットならではの携帯性のメリットが感じられる。

 トータルとしては、「EF-S55-250mm F4-5.6 IS STM」は携帯性と操作性、描写力のバランスが取れたレンズといえる。安かろう悪かろうという言い方があるが、このレンズにそれは当てはまらない。400ミリ相当の望遠撮影を気軽に楽しみたい人や、静音性を重視する人には特におすすめできる。

 入門者にとっては、しばらく使っているうちに開放値に物足りなさを感じ、より明るい望遠ズームが欲しくなるかもしれない。趣味としての写真撮影に目覚めた人ならなおさらだ。でも、キットレンズとはそういうもの。それだけで満足できる完ぺきなキットレンズなんて存在しない。さらに、次のレンズが欲しくなるように仕掛けられたレンズがキットレンズなのである。

photo マニュアル(F25 30秒) ISO100 WB:白熱電球 焦点距離:146mm カメラ:EOS 70D
photo マニュアル(F5.6 1/200秒) ISO200 WB:太陽光 焦点距離:250mm カメラ:EOS 70D

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