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エキスパートの力を借りて砂漠の生き物を撮る山形豪・自然写真撮影紀

» 2013年10月23日 10時00分 公開
[山形豪,ITmedia]

 9月初めから2週間ほど、ナミビア共和国 大西洋岸の町スワコプムントに滞在した。目的はナミブ砂漠を住みかとする数々のユニークな生き物たちを撮ることにあった。しかし、ナミブ砂漠は想像を絶する広大な砂と岩の世界であり、食うもの食われるものを問わず、あらゆる生物が身を隠すことにしのぎを削っている場所だ。経験も知識も浅い私の力では、なおかつ2週間程度の滞在では到底、まともな撮影結果を期待できなかった。

 そこで今回、自分としては珍しく現地エキスパートの手を借りることにした。撮影アシストをお願いしたデイン・ブレイン(Dayne Braine)さんはナミビア生まれナミビア育ち。父親がもともと国立公園の自然保護官だったことから、幼少期より大自然の真っただ中で育ってきた人物だ。

photo ナミブ砂漠でヘビを探すデイン・ブレインさん ニコンD800, AF-S 24-70mm f2.8G, 1/200秒 f22 ISO800

 現在ではスワコプムントを拠点にバティス・バーディング・サファリズ(Batis Birding Safaris)というサファリ会社のガイドをしている。驚異的な視力と、生き物を見付ける野性的な「勘」を持ち合わせ、写真やカメラにも関心が高いため、撮影ガイドとしては実に頼もしい人物だ。

 彼との出会いは今年6月。私が撮影ツアーでナミビアを訪れた際、現地ドライバー兼ガイドとして同行してくれたのがきっかけだ。以来意気投合し、砂漠での撮影ガイドをお願いしたところ、快く引き受けてもらった。私同様ニコンユーザーである点も、気が合った理由のひとつかも知れない。

 今回のフィールドで目当てとしていた被写体は何種類もいたのだが、メインはナマクワカメレオンとミズカキヤモリ、そしてペリングェイアダーと呼ばれる小型のクサリヘビ(マムシの仲間)だった。これらはナミブを代表するは虫類であり、その姿形や生態など、どれをとっても実に面白いのだ。

 ナマクワカメレオンは、全長25センチほどの、ナミブ砂漠に暮らす唯一のカメレオンだ。樹木のない環境で、エサとなる昆虫や隠れ家を求めて茂みから茂みへと移動するため、カメレオンにしては脚が速く尻尾が短い。移動中であれば比較的容易に見付けられるこのは虫類も、一度、茂みに同化してしまうと非常に見えづらくなる。

photo デイン・ブレインさんとナマクワカメレオンの子供 ニコンD4, PC-E ニッコール 24mm f3.5D, SB-910, 1/320秒 f25 ISO1600

 地面に残された足跡をたどるのが最も有効な手段なのだが、風の強いナミブでは砂の上の足跡もすぐにぼやけてしまうので、素人目には新しいのか古いのかがなかなか分からない。しかし、私には砂上の風紋にしか見えなかった模様もデインさんは的確に読み取り、大小数匹のカメレオンを見付けてくれた。

 ミズカキヤモリはその名の通り脚に水かきがあり、体が半透明の非常に美しいヤモリだ。水かきは砂を掘るためのもので、日中は砂の中で過ごすため、撮影に際しては、少し可哀想ではあるが掘り出すしかない。

photo ミズカキヤモリ ニコンD800, AF マイクロニッコール 60mm f2.8D, 1/100秒 f32 ISO1000

巣穴の入り口は比較的容易に見付けられるものの、形がサソリ類のそれと類似しているため、間違ってサソリの穴に手を出すと大変な目にあう危険性もある。無知や経験不足が招く災難というものは確実に存在するのだ。また、掘り出し方にも注意が必要で、下手なやりかたをすると、ヤモリの尻尾を切ってしまったり、圧死させてしまったりするそうだ。やはり未経験者はうかつに手を出さないほうがよいと痛感した。

 今回のターゲットの中で最も発見が困難だったのがペリングェイアダーだ。目だけを砂から出した状態で獲物を待ち構えるという独特の手法で狩りをするため、目の前にいても素人にはまず分からない。しかも前述の二種よりも個体数が少ないため、生息環境や生態にまつわる詳しい知識と経験なしには見付けられないのだ。

photo ペリングェイアダー ニコンD4, PC-E ニッコール 24mm f3.5D, 1/1600秒 f22 ISO1600, SB-910 FP発光

 全長25センチ程度というクサリヘビとしては非常に小型である点も難度を上げている。毒蛇でもあるので、ヤモリのように手で砂を掘って探すというわけにもいかない(弱毒性なので、成人であれば噛まれても数日間痛みでのたうち回る程度で済むというが……)。今回は砂の上に残されたわずかな痕跡(ヘビがはった跡)を頼りに、見事2匹のペリングェイアダーを見付けてもらい、多くの写真を撮ることができた。

 普段アフリカでの撮影に際しては、ガイドなしで行動することは以前にも述べたと思う。自然写真の現場では他人の介在が邪魔に感じることが多いし、写真の結果に悪影響を及ぼしかねないからだ。しかし、それが許されない状況や被写体も存在するし、ウマの合う相手であれば、逆に撮影内容も効率も一気に上がる可能性がある。その意味で、デインさんとの出会いは自分にとって非常に幸運だった。彼とはこの先も様々なフィールドで行動をともにすることになるような気がする。

著者プロフィール

山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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