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シマウマのシマは何のため?山形豪・自然写真撮影紀

» 2013年12月24日 07時00分 公開
[山形豪,ITmedia]

 テレビを見ていると、アフリカの自然環境はさも野生動物であふれかえっているのような印象を受けてしまう。しかし、実際には動物が数多く生息している場所でも、しっかり探さないと何も見えない場合が多い。肉食獣と草食獣とのせめぎ合いが絶え間なく続く自然界では、どちらにとってもなるべく目立たずにいることが生き残る上で重要な要素となるからだ。

 ところが例外もあって、どこにいても必ず目に付く動物も中にはいる。ひとつはキリンだ(山形豪・自然写真撮影紀:キリンという不思議な動物)。あまりの背の高さ故に、かなり遠くからでも一目でそれと分かる。そしてもうひとつがシマウマだ。目立つことにかけては、彼らの上を行く大型哺乳類はそうそういない気がする。

photo サバンナシマウマ。 ボツワナ、ナイパン国立公園。 ニコンD200、AF-S 500mm f4D II、1/1000 f6.3 ISO250

 シマウマはアフリカ大陸の東部から南部にかけての地域に3種類が生息している。最も数が多く、分布域も広いのが、砂漠と熱帯林以外の平地に暮らすサバンナシマウマで、いくつかの亜種に分かれている。そして南部アフリカの山岳地帯にはヤマシマウマ(ケープヤマシマウマとハートマンヤマシマウマの2亜種)、東アフリカの乾燥地帯には絶滅危惧種のグレビーシマウマがいる。それぞれ生息環境が異なるだけでなく、縞模様の細かさなどが種類によって違うのだが、いずれも基本的には白と黒のカラースキームを持つ。

 草食獣の大半が主に茶色系の色をしており、カムフラージュによって身を守ろうとしているアフリカで、シマウマだけが、さあ見て下さいと言わんばかりの奇抜な柄の毛をまとっているのは、何とも不可解である。

 素人考えでは、あのような目立ち方をしたら捕食者に狙われる確率が上がり、生存に不利であるように思われてならない。しかし、長い進化の過程でシマウマたちが絶滅せずに生き残り、場所によってはかなり個体数の多い種となっている点から見ると、あの姿はアフリカの自然環境の中で生き残ってゆく上で、かなり有益なはずなのだ。では、彼らのストライプ柄には一体どんな役割があるのか。そんな疑問に対してのいち回答が、先日、英BBCのニュースサイトにのっていた。

photo ケープヤマシマウマ(サバンナシマウマより縞が細かいのが特徴)。 南アフリカ、カルー国立公園。 ニコンD4、AF-S 500mm f4D II、1/100 f8 ISO1250

 「Zebra stripes mystery 'explained'」と題したその記事によると、シマウマの模様は捕食者に目の錯覚を起こさせるためにあるらしい。人間界でも、ぐるぐる回る床屋のサインポールの模様が上に向かって動いているように見えたり、一方向へ回転している扇風機や飛行機のプロペラが、ある速度に達した際に反対方向へ回転しているかのように見えることがあるが、それと同じ原理だそうだ。

 シマウマの場合、尻部の幅広で斜め方向に走る縞と、脇腹や首の細く縦方向に伸びた縞との組み合わせに、捕食者の目を惑わす効果があるらしい。例えば、右方向に走っている時に、追いかける相手には、さも左方向へ動いているかのように見えてしまうのだという。獲物がどちらへ向かっているのか分からなくなった肉食獣は判断に迷い、この隙にシマウマは危機を脱することができるのだとか。

photo サバンナシマウマの群れ。 ナミビア、エトシャ国立公園。 ニコンD800、AF-S VR 80-400mm f4.5-5.6G、1/1250 f9 ISO1000

 この視覚的効果はシマウマが群れでいる場合に特に有効との記述だったが、正直なところ、群れで逃げるシマウマの移動方向を見誤った経験はいまだかつてない。もっとも、私は肉食獣ではないし、もしかしたらライオンたちには違って見えるのかもしれない。

 ちなみに、シマウマは「馬」と呼ばれてはいるが、大きな頭と長い耳、短い足など、特徴はむしろロバのそれに近く、泣き声もロバそっくりなので、シマロバと呼んだほうがよいのではないかといつも思う。

著者プロフィール

山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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