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» 2014年02月21日 17時20分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:日本の野生動物を撮り、日本の自然美を再認識する

日本国内では滅多に野生動物を撮ることはないのだが、海外からの来客を案内する場合は別。日本の自然が持つ美しさを再発見できる良い機会だった。

[山形豪,ITmedia]

 普段国内で自然写真の撮影をすることはあまりないため、この連載で日本の野生動物を紹介するのは初めてではないかと思う。

photo 魚を食べるシマフクロウ。羅臼にて。 ニコンD4, AF-S 500mm f4 D II, 1/125秒 f4.5 ISO5000

 日本での撮影にあまり熱心でない理由は主にふたつまず、幼少期から中米や西アフリカ、東アフリカなどで過ごしてきた私にとって、日本の自然はあまり馴染みがない点が挙げられる。特定の環境に対する愛着は、子どもの頃の原体験が大きく影響していると思うのだが、小学校高学年から中学の3年間を西アフリカのブルキナファソやトーゴで過ごした私にとって、アフリカのサバンナこそが戻るべき場所だと感じられてならない。

 そのため日本の国土に対しての印象は、もともとかなり希薄なのだ。しかも、大学卒業後、帰国してフリーになってからもフィールドワークの大半は南部アフリカで行ってきたため、私が持つ日本の自然に関する知識、経験は至って乏しい。

photo 氷の上で眠るオオハクチョウたち。屈斜路湖、砂湯にて。ニコンD800, AF-S VR 80-400mm f4.5-5.6, 1/2500秒 f7.1 ISO1000

 ふたつ目はまったく夢のない話で恐縮だが、「金」の問題だ。使える資金のほぼすべてをアフリカでの撮影につぎ込んでいる身としては、国内での撮影は優先順位がかなり低い。可処分所得が潤沢にあるならいざ知らず、ただでさえ物価の高い日本で、アフリカのフィールドに戻るためだけに日々カツカツの生活を送っている人間にとって、この国は決して活動のしやすい場所ではない。まして素晴らしい作品を撮る写真家が既に数多くいる中で、わざわざ日本に慣れていない私のような人間に撮影の話を持ってくる奇特なメディア関係者もいないのである。

photo 魚を食べるオジロワシ。羅臼港にて。ニコンD800, AF-S VR 80-400mm f4.5-5.6, 1/1600秒 f10 ISO1600

 ところが、海外にいると自分が日本人であるという現実が、望むと望まざるとにかかわらず突きつけられる。行く先々で会う世界中の写真家たちと交流を持てば、「お国自慢」のような話に遅かれ早かれなるのだ。そして、どんなに長くアフリカで撮影をしてきたとしても、所詮周りから見れば日本人であることに違いはなく、日本の自然はどんなものなのか、魅力的な撮影場所や被写体はいるのかといった質問を浴びる事となる。その度に、自分の乏しい経験と少ない知識を元に、精一杯日本の自然の素晴らしさをアピールし、撮影地の情報を提供せねばならなくなるのだ。

 さらに、ここ数年、英BBCのドキュメンタリー番組を筆頭に、海外メディアで日本の自然がとり上げられるケースが増えた。特に、長野県地獄谷の温泉につかるニホンザルと、雪の上で舞う北海道のタンチョウヅルはとても人気がある。プロ、アマを問わず、テレビや雑誌で見たら今度は自分が行ってみたい、撮ってみたいと思う人が出てくるのは当然のことだ。そこへ、英語を解する日本人の自然写真家が現れれば、案内してくれという話へと発展する可能性は高くなる。何しろ日本は外国人旅行者にとって非常に旅のしづらい場所として有名である。特に地方で通訳/ガイドなしに外国人が旅をするのは極めて困難だ。

photo 長野県、地獄谷野猿公苑で温泉につかるニホンザル。ニコンD4, AF-S VR 80-400mm f4.5-5.6, 1/640秒 f8 ISO800
photo 北海道、鶴居村のタンチョウヅル。伊藤タンチョウ・サンクチュアリにて。ニコンD4, AF-S 500mm f4 D II, 1/2500秒 f8 ISO1000

 そんなわけで、昨年後半に南アフリカで撮影を行っていた際、現地の友人写真家の一人から、冬の日本の野生動物を撮りたいので案内してくれと頼まれた。撮影対象はご多分に漏れず長野県地獄谷のニホンザル、北海道は釧路のタンチョウヅル、屈斜路湖のオオハクチョウ、知床半島のオオワシ、オジロワシ、そしてシマフクロウだ。実を言うとこれらの被写体を撮影した経験は一応あり、土地勘もゼロではなかったので、引き受けることにした。期間は2週間。一月下旬にまず長野でサルを撮り、一端東京に戻ってから釧路へ飛んで、レンタカーで鶴居村、屈斜路湖、羅臼を巡った。

 経費はすべて先方が出すという話だったので、自腹を切らずに旅行ができた上に、撮影後は温泉につかり、地元の美味い料理にありつけたので、稼ぎにならない話ではあったが実に楽しかった。旅の道連れがクライアントではなく友人であったため、余計な気を使わずに済んだ点もありがたかった。個人的には撮影結果にも満足しており、日本の自然が持つ美しさを再認識できた意味でも非常に有意義な旅だった。

著者プロフィール

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山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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