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» 2014年04月22日 12時39分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:ボツワナ・マシャトゥ動物保護区への誘い

アフリカには多くの国立公園や動物保護区が存在する。マシャトゥ動物保護区もその中の一つだが、野生動物写真家の目線から見ると格別に写る魅力が無数にある。

[山形豪,ITmedia]

 マシャトゥ動物保護区は南部アフリカのボツワナ共和国東部、南アフリカとの国境に位置している、総面積46000ヘクタールを誇る広大なサバンナだ。以前にも「アフリカで超ローアングルから野生動物を撮る」と題した記事でマシャトゥは紹介させていただいたが、今回はエレファント・ハイド以外の魅力についてだ。

photo あくびをするライオン ニコンD800E, AF-S 800mm f5.6 FL VR, 1/1250 f5.6 ISO1250

 今までアフリカの国立公園や動物保護区をいくつも訪れてきたが、マシャトゥはその中でも特に気に入っている。その理由は以下のようなものだ。

起伏に富んだ地形

 野生動物保護区となっているからには、動物が多く生息していることは当たり前なのだが、撮影をする上で動物の数と同じくらい重要だと私が感じるのは地形や植生だ。いくら動物がうじゃうじゃいても、そこが何もない平地だけだと作品が単調になりがちだし、ヤブだらけでも、画面の至る所に邪魔な枝や草が写り込んで往生する。

 マシャトゥは適度に開けていて、なおかつ岩場や川辺、草原や林などのバリエーションがあるため、より変化に富んだ“絵”が撮りやすいのだ。これに時間帯による光線の違いや、その時々の気象条件が加わることで、さらに多くの撮影チャンスが巡って来る。

photo 起伏に富んだマシャトゥの地形 ニコンD4 AF-S VR 80-400mm f4.5-5.6, 1/2000 f13 ISO1250 

人の少なさ

 マシャトゥは広大な保護区であるにも関わらず、エリア内にロッジ等の宿泊施設が数軒しか存在しない。しかも日帰り客は入れないとあって、ハイシーズンですら観光客でひしめき合うといった事態には絶対ならない。また、1カ所に集まる車も3台までと決められているので落ち着いて撮影できる。

 昨今ケニヤのマサイマラなどは、観光客の数が増え過ぎて、ライオンやチーターが何台もの車に取り囲まれると言ったケースが頻発している。このような状況は写真を撮りにくいだけでなく、動物に危害が及ぶ可能性があるので、本来起きてはならない。

車に屋根がない

 サファリで大型野生動物を撮影する場合、ほとんどは車からとなる。ゾウやライオン、ヒョウといったいわゆる“猛獣”を相手にするのだから、当然と言えば当然の話だ。しかし、被写体の動きに合わせてカメラを振り回したい者にとって、車の屋根や窓は障害物でしかない。

 そんな我々の願いを聞き入れてか、南部アフリカの私営動物保護区では、屋根をすべて取り払った四輪駆動車が使用される。500mm f4クラスの長玉でも楽に振り回すことができるので、撮影アングルの自由度が極めて高く、納得のいく作品が撮れる可能性が屋根付きの車に比べて格段に上がる。ただし、雨が降るとかなり悲惨で、ポンチョを被っても足下からずぶ濡れになるし、機材の浸水を避けるのがとても大変なので、雨季にはそれなりの覚悟が必要となる。

photo フルオープンの車で、道を外れてゾウを撮影 ニコンD300, AF-S 500mm f4 DII, 1/320 f4 ISO800

道を外れてターゲットに近付ける

 通常、国立公園や動物保護区では、決められた道路を外れてブッシュに分け入る行為は許されていない。これは動植物を守るための当然の措置と言える。何の規制もなしに自由に車で走り回れるようにしてしまうと、たちまち辺りは車のタイヤ跡だらけになって環境は荒らされてしまうだろうし、動物たちにも危害が及ぶ可能性があるからだ。

 しかし、マシャトゥのような私営動物保護区では、広大なエリア内をわずかな数の車が走るだけだし、訓練を受けたドライバーしか運転できないので環境への影響が極めて少ない。そのため、場合によっては道を外れることが許されている。これは被写体までの距離や、アングルを決める上で自由度が極めて高くなることを意味している。

ドライバーの質

 どんなに屋根の無い車で、道を外れることが許されていたとしても、ドライバーの腕が悪ければ話にならない。セルフドライブが許されていない環境では、ドライバー次第で撮影結果は最高にも最悪にもなり得る。特に警戒心の強い動物相手の場合、車のポジショニングやエンジンを止めるタイミングはワンチャンスしかない。最初にしくじったら、その時点で大抵相手は逃げてしまう。

 マシャトゥのドライバーたちはそのことをよく理解しているし、動物の行動についての知識や経験も実に豊富だ。しかも撮影者の意図もくみとってくれるので、車の配置のしかたがとても上手い。過去、様々な場所で幾度となく下手なドライバーに当たり千載一遇のチャンスを逃してきた身としては、安心してドライビングを任せられるのはこの上なくありがたい。

photo エルヴィスはマシャトゥの優秀なドライバーの一人 ニコンD800, PC-E 24mm f3.5D, 1/60 f7.1 ISO640, SB910

 一口にサファリと言っても、アフリカには数多くの国立公園や野生動物保護区が存在し、それぞれに撮影条件は違っている。そんな中でマシャトゥは私にとって最高のフィールドの一つだ。ちなみに、現在ニコンの雑誌及びWebのスペシャルコンテンツ「私のNIKKOR」に「AF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VR」で撮影したヒョウの写真を出していただいているが(私のNIKKOR Vol.19 山形豪 800mm f/5.6 生命の肖像を撮る、超望遠)、このヒョウを撮影したのもマシャトゥ動物保護区である。

著者プロフィール

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山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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