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ナミブ砂漠を空から撮る山形豪・自然写真撮影紀

» 2014年10月24日 19時00分 公開
[山形豪,ITmedia]

 南北に長いナミビアの西側、すなわち大西洋沿岸は、その全てがナミブ砂漠に覆われており、一部がナミブ砂海(ナミブ・サンド・シー)として、2013年にユネスコ世界自然遺産に登録された。連綿と続く砂丘群は、太陽の位置が変わるに従ってさまざまな光と陰のコントラストを作り出す。それは見る者を圧倒する大自然の造形だ。

ナミブ砂漠 ナミブ砂漠、ソススフレイの大砂丘 D800、AF-S 80-400mm f4.5-5.6G ED VR、1/1250秒、F8、ISO800、焦点距離230ミリ

 通常ナミブ砂漠を訪れる人々は、ソススフレイという大砂丘へのアクセスが比較的容易な場所を目指す。私も何度か足を運び、息を切らしながら多くの砂丘に登り撮影を行ってきた。どれだけ苦労して頂上にたどり着いても、その向こうにはまた次の砂丘が現れるだけという世界は、人間の小ささと無力さを思い知らせてくれる。

 しかし、同じ場所に通い続けていると、やがて地上で砂まみれになるだけでは満足できなくなり、是非空からこの巨大な砂漠を見てみたいという欲求に駆られてしまう。そのような人々は、ナミブ観光の拠点である港町スワコプムントへと向かう。ここには砂漠を空から眺める遊覧飛行を行う会社がいくつもあるのだ。2時間程度のフライトで料金は250ドル(約2万5000円)と、貧乏人には決して安くない額だったが、どうしても空からナミブを見てみたかったのと、面白い写真が撮れるだろうという期待があったので、2013年の11月に思い切って参加してみた。

自然写真撮影紀 遊覧飛行に使われるセスナ210。機内はかなり手狭だ。D800、AF-S 24-70mm f2.8G ED、1/2500秒 f8 ISO500 焦点距離24ミリ

 フライトは気流が比較的穏やかになる午後3時くらいの出発だった。町中の宿から送迎バスで郊外の飛行場へと向かい、パイロットの自己紹介と飛行ルートに関する短いブリーフィングを受けた後、飛行機に乗り込んだ。機体は6人乗りのセスナ210で、他のお客さんたちと乗り合いだった。ここで料金について補足しておくと、一人当たり250ドルというのは乗客が5人いる場合の話で、1機1フライト1250ドルとなっている。従って乗客が5人集まらなかった場合は頭割りとなる。

自然写真撮影紀 パイロットは南アフリカ人の青年だった。D4、AF-S 17-35mm f2.8D ED、1/1600秒、F10、ISO1000、焦点距離17ミリ、SB-910

 機内にカメラバッグを持って入るだけのスペースは全然なく、ボディ二台を首から下げて乗り込むのがやっとだった。しかも、一番後ろの2席は、機体後部の細くすぼまっている部分に位置するため、ただでさえ低い天井がいよいよ低くなっており相当窮屈だ。幸い私は一番視界が広い副操縦士席に座らせてもらえたが、それでもカメラ2台を扱うのは楽ではなかった。

 ダートの滑走路を離陸すると、たちまち高度2000フィート(約610メートル)まで上昇し、水平飛行に入った。飛行距離は約580キロで、まずスワコプムントから、いくつかの谷を越えて南南東のソススフレイへ向かった。そこから北西へ転進し、海へ出たら海岸沿いに北上、スワコプムントへ戻るというルートだった。空から見るナミブ砂漠は想像以上に広大だった。一様に砂丘が続くわけではなく、巨大な岩山や、深い渓谷なども存在する、かなり変化に富んだ光景だった。

ソススフレイ大砂丘群空から見たソススフレイの大砂丘群。D800、AF-S 24-70mm f2.8G ED、1/2500秒、F5、ISO640、焦点距離66ミリ

 また、砂丘も地形や風向き等の影響でさまざまな形をしており、砂を構成する鉱物の種類によって赤い砂丘もあれば白っぽい砂丘もあることが見て取れた。海岸に出ると、そこはまさに砂漠の尽きる場所で、砂丘がいきなり大西洋の荒波にとって変わった。所々に朽ち果てた難破船が打ち上げられていたり、浜辺にオットセイのコロニーがあったりと、一見何もなさそうな風景も、実は見所満載で、2時間のフライトはあっという間に終わってしまった。

ソススフレイ砂丘 風向きなどによって様々な形になる砂丘。D800、AF-S 24-70mm f2.8G ED、1/2500秒 F5 ISO640 焦点距離52ミリ
砂の壁 “砂の壁”と呼ばれる、ナミブ砂漠の尽きる場所。D800、AF-S 24-70mm f2.8G ED、1/5000秒、F4、ISO800、焦点距離44ミリ

 窓からの眺めを楽しむだけならこのような遊覧飛行は最高なのだが、写真を撮るとなるといくつかハードルがある。一番苦慮するのが風防越しに撮影する際に生じる歪みだ。本格的な航空写真をセスナから撮る場合は、ドアを取り外した状態で飛行するのだが、そのためには一機丸々チャーターせねばならず、かなりの費用がかかる。

 では、窓の開けられない軽飛行機での遊覧飛行で、多少なりとも使える写真を撮るにはどうするか。答えはとにかくレンズを窓面に対して直角に保つことだ。レンズの向きが少しでも斜めになると、たちどころに画像の歪みが生じてしまう。したがって、細かな構図云々にこだわる余裕はあまりない。水平飛行中に下の方に見えるものを撮ろうと思っても、カメラを下方へ向けた時点でアウトだ。それでは遠くの地平線しか撮れないではないかと思われるかもしれないが、名所の上空に達すると、パイロットが乗客のために機体を左右にバンクさせてくれる。シャッターチャンスはその時だ。

 ただし、レンズを窓に密着させないよう注意する必要がある。エンジンの振動が直接カメラに伝わってしまい、ブレの原因となるからだ。その一方で離し過ぎても、今度は窓面の反射が写り込んでしまうので、微妙な距離を保たねばならない。

 また、巡航速度が150ノット(時速278キロメートル)前後と速いので、もたもたしているとあっという間に目標を通り過ぎてしまう。その意味でも、撮影にはコパイロット席に座るのが一番だ。前方が見えるため、あらかじめ何が来るかが分かるからだ。ちなみにレンズは24-70mmくらいがちょうどよい。

 もう1つの問題はセスナの窓がアクリルでできていることだ。ガラスと違ってアクリルは経年劣化で黄ばんだり細かなヒビが入ったりするし、新品に近い状態であっても、窓越しの撮影では少なからず色が浅くなったり濁ったりする。これに関しては撮影現場での解決策は存在せず、後日LightroomやPhotoshopでコントラスト調整やレベル補正を行うしかない。

 窓の開けられないセスナからの撮影には少々ハードルもあるが、ナミブ砂漠の大きさと美しさを空から、しかも短時間で効率よく見て回れるこの遊覧飛行は、ナミビアを訪れる人には是非お勧めしたい。

著者プロフィール

山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら

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