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» 2015年03月02日 15時45分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:鳥撮りの道具

自然写真は細分化するといくつかのジャンルに分けられ、中には野鳥を専門に撮る人々がいる。彼らは俗に鳥撮り(とりとり)と呼ばれる。

[山形豪,ITmedia]

 先日、ボツワナのマシャトゥ動物保護区に行った時のこと。今回は友人の南アフリカ人写真家に誘われての旅で、先方の知人数人との賑やかなサファリとなった。私の主な目的はいつも通り大型野生動物の撮影にあり、当然他の参加者も同じだろうと思っていた。ところが、メンバーの1人に、かなり気合いの入ったバードウオッチャーの女性がいた。日本ではバードウオッチャーというと、特異な趣味を持つ人のように扱われることが多いが、欧米、とりわけイギリスや南アフリカを含めた旧英領圏では、バードウオッチングは一般的なたしなみだ。彼女の狙いは、哺乳類の観察/撮影ではなく、4日間で150種以上の野鳥を見つけることにあった。

 鳥を見る人のシリアス度を見分ける最も簡単な方法は、首から下げた双眼鏡をチェックすることである。入れ込んでいる人たちは、決まってスワロフスキーかライカ、またはツァイスの、それも20万円の大台を超える機種を使っている。今回一緒だった女性も、ご他聞に漏れずライカの8倍双眼鏡を肌身離さず持ち歩いていた。藪の中のどんな小さな動きも見逃さず、瞬時に双眼鏡を構える動作は正に長年の修練の成せる技だった。また視覚のみならず、聴覚も極めて敏感で、一瞬聞こえた鳥の鳴き声から種を特定していた。彼女は結局4日間で148種の同定に成功したそうだ。マシャトゥのような植生の薄い乾燥したサバンナで、それもあのような短期間に出した数字としては驚異的だ。

 彼女は純然たるバードウオッチャーなわけだが、野鳥を見付け、観察するだけでは飽き足らず、写真を撮らねば気が済まない人々がいる。彼らは俗に鳥撮り(とりとり)と呼ばれる。鳥撮りには大きく分けて2種類のタイプが存在し、こちらも道具立てを見ると判別ができる。1つ目はバードウオッチャー派生型とでも言うべき人々で、彼らは写真の完成度そのものよりも、何を見たかを記録し、画像から種が判別できるかどうかに重点を置く。そのため、高倍率のスポッティングスコープにアダプターを付け、ミラーレス一眼などのカメラを装着するデジスコを多用する。ターゲットの捕捉を容易にするため、ドットサイトを用いる人も見受けられる。これらのセッティングは、かなり遠くの小鳥でもそこそこの大きさで撮影が可能であることにその利点がある。

 もう1つのタイプが、野鳥を主題とした「絵」を撮りたいと考える人々だ。彼らは画質や構図など、写真の作品としての完成度に強い執着心を持つ。そのため、マニュアルでしかピント合わせができず、絞りも変えられないデジスコには不満があり、デジタル一眼に巨大な長玉を使っている場合が多い。

山形豪 飛び立つキハシコサイチョウ。ボツワナ、マシャトゥ動物保護区。ニコンD4、1/6400秒、F7.1、ISO1600、AF-S 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR

 私も野鳥専門ではないものの、かなりの頻度で鳥を撮る。記録に成功した鳥の種類数や、種の希少性を競うことを目的にしているわけではないので、カテゴリーとしては後者の部類に属していると言えるだろう。私がこだわってきたのは、その瞬間の美しさや、特定の環境が持つ雰囲気がそこから伝わるかどうかといった部分だ。その場面が綺麗だと思ったら、まず気の向くままに写真を撮る。被写体が知らない鳥だったとしても、種の同定を行うのは撮影後だ。ありきたりのスズメであれ、超レアな種であれ、ピンとくればシャッターを切るし、撮りたいと感じなければ無視してしまう。

山形豪 枝を巡り争うミナミベニハチクイ。ボツワナ、マシャトゥ動物保護区。 ニコンD800E、1/2000秒、F7.1、ISO1000、AF-S 800mm f/5.6E FL ED VR

 写真の完成度を重視する鳥撮りにとって、被写体の飛んでいるところや飛び立った瞬間、枝にとまる直前などは極めて重要な場面で、広げた翼の先までシャープに写したいという欲求がそこにはある。当然かなりの高速シャッターを切らねばならない。特に、被写体が小さくなればなるほど翼の動きが速くなるので、シャッタースピードは1/2000秒くらいはほしいところだ。そのためには、開放F値が小さく、焦点距離の長いレンズと、高感度域でも高画質が確保できるボディが必要となる。

山形豪 水場から飛び立つコウヨウチョウの群れ。ボツワナ、マシャトゥ動物保護区。ニコンD810、1/2000秒、F8、ISO1000、AF-S 500mm f/4D II

 以上の要件を全て満たすとなると、500mm F4 (ゴーヨン)や600mm F4 (ロクヨン)などの単焦点超望遠レンズにD4sやD810といったハイエンドボディとのコンビネーション辺りが“標準セット”となる。ところが、500ミリのレンズをフルサイズのボディに付けても、その倍率は10倍しかない。APS-Cサイズでもその1.5倍程度で、デジスコには遠く及ばないのだ。しかも、これらの機材は値段もサイズも重量もデカ過ぎて、頭痛の種となることしきりだ。また、大型三脚や長玉専用雲台など、周辺機材も大掛かりになって移動に苦労する。コンパクトカメラでは光学60倍ズームなんてモデルもあるのだから、一眼レフ用交換レンズでも、例えば300ミリから1500ミリくらいのズーム域を持ち、持ち運びの容易なものができないのだろうか? ボディ側の高感度性能は新機種が出るごとにどんどん上がっているのだから、F値は可変でも、多少暗くてもどうにかなるはず。メーカーさんには是非ご検討いただきたいものだ……。

【お知らせ】「デジタルカメラ 超・動物撮影術」を上梓

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 先日アストロアーツから「デジタルカメラ 超・動物撮影術」というムック本が発売となった。ペットから野生動物まで、さまざまな動物の撮り方を解説した本となっており、私もアフリカでの作例を用いて、いろいろなシチュエーションでの撮影方法や、機材に関するページを担当している。動物写真に興味をお持ちの方に是非ご覧いただきたい。


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