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アフリカでニコン「COOLPIX P900」の実力を試す山形豪・自然写真撮影紀

» 2015年03月23日 14時15分 公開
[山形豪ITmedia]
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 普段の撮影はデジタル一眼レフで行っているが、このほどニコンから新たに発売された「COOLPIX P900」をアフリカで使う機会を得たので、今回はその性能を、“野生動物を撮るための道具”という観点からリポートしよう。細かなスペック等はカタログやニコンのWebサイトでご覧いただきたいと思う。

 COOLPIXの名を冠している以上、P900はコンパクトデジカメという位置づけなのだが、見かけはレンズの取り外しができない一眼レフといった感じだ。重さはバッテリー、メモリーカード込みで899グラム。エントリークラスのデジタル一眼レフ、「D5500」(470グラム)に、キットレンズ「AF-S DX NIKKOR 18-140mm f/3.5-5.6G ED VR」(490グラム)を付けたものが960グラムだから、これより少し軽い程度。それだけに一眼レフに慣れている身としては手に馴染みやすかった。

 また、電子ビューファインダー(EVF)を備え、軍艦部にコマンドダイヤルと露出モードダイヤルを配置するなど、操作感も一眼レフのそれに近い。レンズ先端部に67ミリ径のフィルターネジが切ってあるのもありがたい。フィールドで使うカメラとしては、雨粒や砂埃、レンズの傷つき等を防ぐために保護フィルターは不可欠だからだ。

 このカメラの最大の特徴は、何と言ってもそのズーム倍率だ。光学83倍というのは前代未聞であり、焦点距離は35ミリ判換算で、24ミリから2000ミリに相当するというとんでもないものである。しかも、テレ端でも開放F値が6.5と十分明るい。こんな超高倍率ズームは、画質面でかなり無理がでるだろうと思っていたが、私の予想はいい意味で裏切られた。

 実際に使ってみると、全ズーム域において驚くほどシャープで良好な画質を実現しているのだ。EDレンズ5枚に加え、AF-S 80-400mm f/4.5-5.6Gなど一部のレンズにのみ採用されているスーパーEDレンズを採用しているためだろう。コンデジにしてはずいぶんと贅沢なレンズ構成である。

 では、光学ズーム域の端から端までは、どれくらいの差があるのか、次の写真2点を見てもらいたい。上は川辺でくつろぐライオンの群れを、ワイド端(24ミリ相当)で撮影したものだ。そして画面中央部の、黄色っぽい点のように見える座り込んだライオンを同じ場所からテレ端(2000ミリ相当)で撮影したものが下の画像だ。何とも圧倒的な倍率であるのみならず、解像感も決して悪くないように思う。

COOLPIX P900 ワイド端で撮影したライオンの群れ。ボツワナ、マシャトゥ動物保護区。F2.8、1/800秒、ISO100、4.3mm(24mm相当)、COOLPIX P900
COOLPIX P900 テレ端で撮影したライオン。ボツワナ、マシャトゥ動物保護区。F6.5、1/400秒、ISO400、357mm(2000mm相当)、COOLPIX P900

 取り回しやすい小さなパッケージで大倍率の撮影ができるようになったことは、特に小さな鳥を撮る人間にとって大変ありがたい。というのも、一眼レフ用超望遠レンズは長く大きいため、かまえただけで鳥が驚いて逃げてしまうことが往々にしてあるからだ。P900ならば最大ズームまでレンズを繰り出してもとても小さいし、デジスコ(デジタルカメラ+フィールドスコープ)のように常時三脚を必要とすることもない。シャッター音もほとんどしないので、相手に余計な威圧感を与えずに撮影ができる点も大きなアドバンテージだ。

COOLPIX P900 セネガルショウビンというカワセミの仲間。ボツワナ、マシャトゥ動物保護区。F6.3、1/100秒、ISO400、−0.7EV、250mm(1400mm相当)、COOLPIX P900

 一方でCOOLPIX P900は、そのあまりの倍率の高さ故に、動体撮影に向いているカメラではない。背面液晶モニターを使うにしろ、EVFをのぞくにしろ、移動ターゲットをフレーム内に捕え続けるのは至難の業だ。特に600ミリ相当以上の焦点距離で、鳥のように不規則で高速な動きをする相手にピントを合わせ続けながら撮るのは極めて困難であると感じた。

 また、手前に草木があると、そちらにピントを持っていかれるケースが頻発したし、多くの一眼レフ用交換レンズのように、AFを使いながらマニュアルで細かいピント補正を行う手段がないので、微妙なフォーカスの調節ができない。このあたりはやはり一眼レフに軍配が上がる。

 いまひとつの欠点は、一度に7カットまでしか連写ができず、一回シャッターを切ると、書き込みのために単写/連写に関わらず数秒間操作不能になってしまうことだ。あくまで“コンデジ”である以上、仕方のないことかもしれないが、数秒間シャッターを切り続けられるのが当たり前になっている身としては、当初かなり戸惑いを覚えた。もっとも、慣れてくるにつれて、手動巻上げ式フイルムカメラ時代の一発勝負的な感覚が思い出されて愉快でもあった。

 焦点距離が長くなればなるほど問題になるのがブレだが、この点はVR(手振れ補正機能)がカバーしてくれる。作例のライオンの親子は357ミリ(2000ミリ相当)で撮影した。雨の降る薄暗い日だったため、シャッタースピードは1/200秒とかなり遅かった。カメラは車の窓枠に乗せただけで、三脚等は使用していないが、それでもかなりシャープに写っている。

COOLPIX P900 雨の中のライオンの親子。南アフリカ、ピランズバーグ国立公園。F6.5、1/200秒、ISO400、357mm(2000mm相当)、COOLPIX P900

 ただし、このVRは作動中にカクカクと構図が変わってしまう傾向があるので注意を要する。当然倍率を上げるほどその影響も顕著になるので、連写して数枚に一枚意図した通りの絵が撮れるといった具合だ。2000ミリ相当という恐ろしいほどの超高倍率を、ビーンバッグや雲台などのサポートなしで使いこなすにはそれなりの訓練と、カメラの性質や限界を理解することが必要だ。

 超望遠での撮影というと、どうしても遠くのものを大きく写し撮るものというイメージが強いが、COOLPIX P900は接近戦でもかなり優秀だ。今回は、目の前に現れたスポッテッドブッシュスネークというヘビを至近距離から撮影したが、ピント合わせさえ的確にできれば、被写体の遠近を問わず良好な結果をもたらしてくれることが分かった。もちろん、マクロモードも搭載しているので、昆虫や花のアップなども容易に撮影が可能だ。

COOLPIX P900 スポッテッドブッシュスネーク。ボツワナ、マシャトゥ動物保護区。1/500秒、F6.3、ISO360、250mm(1400mm相当)、COOLPIX P900

 レンズ交換式一眼レフと、値の張る長玉を使っても成し得ないことが、コンパクトデジタルカメラでできてしまうのはいささか妙な気もするが、COOLPIX P900は信じられないくらいの超高倍率撮影が可能なうえ、小型・軽量で機動性が高いので、扱いに慣れればさまざまな写真をモノにできる楽しいカメラだ。しかもワイド側は風景撮影などに適した24ミリ相当からなので、これ一台あれば広角から極超望遠まで全てカバーできる上に価格も手頃だ。野鳥や動物用としてのみならず、旅行用カメラとしても大いに使えるだろう。欲を言えば、アクセサリーシューが付いていればドットサイトやクリップオンストロボが使えて、撮影の幅はさらに広がったかもしれない。

※注:サンプル画像は全て長辺2000ピクセル、72dpiにリサイズしてある

【お知らせ】「デジタルカメラ 超・動物撮影術」を上梓

デジタルカメラ 超・動物撮影術 「デジタルカメラ 超・動物撮影術」

 先日アストロアーツから「デジタルカメラ 超・動物撮影術」というムック本が発売となった。ペットから野生動物まで、さまざまな動物の撮り方を解説した本となっており、私もアフリカでの作例を用いて、いろいろなシチュエーションでの撮影方法や、機材に関するページを担当している。動物写真に興味をお持ちの方に是非ご覧いただきたい。


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