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» 2015年08月21日 12時40分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:総合火力演習でアクションショットを狙う

野生動物と自衛隊の演習、一見かけ離れたジャンルのように見えるが、写真を撮る上での共通点は多い。

[山形豪,ITmedia]

 去る8月18日、御殿場にある陸上自衛隊・東富士演習場で、平成27年富士総合火力演習・第1学校予行が行われた。総火演(そうかえん)の通称で知られるこの国内最大規模の実弾演習は、毎年8月中旬に開催され、一部一般公開もされている。このイベント、年を追うごとに人気が増しており、8月23日開催の本番の観覧チケットは、応募倍率がなんと29倍もあったそうだ。何しろ日本であのように大々的に実弾射撃や戦車、ヘリコプター等のアクションシーンを見られるイベントはほかになく、その迫力は正に圧巻だ。

 普段はアフリカの野生動物や風景を主な被写体としており、このコーナーではいつもそれらをご覧いただいているので、驚いた人もいるかもしれないが、実はミリタリー・ハードウェアの類は昔から好きで、チャンスがあれば写真に収めてきた。そして今年、縁あって総火演予行日の観覧チケットを頂いたので、いそいそと撮影に赴いた次第だ。

富士総合火力演習・第1学校予行 毎年大勢の観覧客が訪れる総合火力演習。F11、1/160秒、ISO160、カメラ:ニコン D4、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR

 さて、せっかく総火演を撮るならば、やはり狙う写真はアクションショットだ。静止している装備品であれば各地の基地祭などでも撮れるからだ。では、どのような撮影機材を用いるか。

 ボディに関しては、やはりそれ相応の連写性能と高速かつ正確なAFを有するものが必要だ。レンズはコンパクトでズーム倍率の高いものがよい。個人的にはフルサイズのボディに80〜400ミリのレンズという組み合わせが一番使いやすかった。レンズが長すぎると、前に座っている人の頭に当たったり、横の人の視界を遮って迷惑となってしまう。また、一度客席についたら演習中はそこから移動できないので、画角の変えられる高倍率ズームが重宝する。客席での三脚の使用も迷惑行為となるので、手持ちで楽に使用できる望遠ズームが理想的だ。

 演習中は場内アナウンスで、その時々に何をやるかが説明されるので、注意を払っておく必要がある。また、号令も重要だ。耳馴染みのない用語を使うので最初はよく分からないが、これに慣れておかないと肝心な瞬間を逃してしまう。

 例えば、各種自走砲で一斉射撃を行い、複数の弾頭を空中で同時炸裂させて富士山の形を描く“演目”は、非常に高度な技術を要する総火演名物の1つなのだが、撮影チャンスはほんの一瞬だ。自走砲は戦車砲のような発砲炎を出さないので、射撃の瞬間を撮るのはそれほど難しくないが、問題は砲弾が目標に到達する瞬間だ。射撃を撮ったらすぐさま右方向にある富士山にファインダーを向け、号令を待つ。数秒後、「だんちゃーく(弾着)、いまっ!」という声があたりに響く。この時、「だんちゃーく」あたりからシャッターを切り始めないと弾頭が炸裂する瞬間に間に合わない。

富士総合火力演習・第1学校予行 各種自走砲の射撃。F6.3、1/2500秒、ISO640、カメラ:ニコン D4、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR
富士総合火力演習・第1学校予行 砲弾が富士山の形に炸裂した瞬間。F6.3、1/2500秒、ISO640、カメラ:ニコン D4、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR

 総火演でもっとも迫力があり人気のあるシーンは、やはり戦車の主砲射撃だろう。とにかくあの派手な発砲炎を伴った轟音と衝撃波は筆舌に尽くし難い。そして、どうせ撮るなら砲が猛烈な炎を吐いた瞬間を収めたいものだ。しかし、燃焼速度が極めて速い装薬の炎は、文字通り瞬く間に消えてしまうので、目に見えてからシャッターを切ったのでは遅過ぎて話にならない。発射前からシャッターを切り始めて、後はカメラの連写性能に頼るしかない。このとき、せめて秒間8コマくらいの連写ができないと、コマとコマの間で火炎が消えてしまう可能性も高い。

富士総合火力演習・第1学校予行 爆音と共に猛烈な発砲炎を出す90式戦車の主砲射撃。F7.1、1/400秒、ISO160、カメラ:ニコン D4、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR

 戦車がポジションに着き射撃準備が整うと、砲塔の上に掲げられる旗が緑から赤に変わる。これが合図で、あとは号令を待つだけだ。ところが、実際には号令直後に射撃が行われるとは限らない。例えば最新鋭の10式(ヒトマルシキ)戦車の場合、スラローム走行をしながらの射撃というのがある。この場合、赤旗が掲げられている間中ずっとシャッターを切り続けられればよいのだが、ニコンD4ですら、秒間10コマの連写速度で撮り続けたら10数秒程度でバッファメモリーが一杯になる。で、シャッターが切れなくなった瞬間に「ドカーン!」ということになる。あの敗北感は、チェイスを始めたチーターを撮っていて、獲物を今まさに倒さんとする直前にバッファーがなくなった時のそれと同じものだ……。

 陸上自衛隊で使用される数多くの陸上/航空装備が登場し、それらの機動を目の当たりにできるのは、この演習の醍醐味だ。そしてこの動きを写真でどう表すかが、撮り手にとっては重要なポイントとなる。例えばヘリコプターは、回転するローターがブレていないと、空中で静止しているような間の抜けた写真になってしまう。そこで、シャッタースピードを遅めに設定する必要がある。だいたい1/250秒かそれ以下にすれば、いい具合にローターブレードが流れてくれる。

富士総合火力演習・第1学校予行 AH-64Dアパッチ・ロングボウのフライト。F11、1/250秒、ISO320、カメラ:ニコンD4、レンズ:AF-S ED 500mm F4 DII

 カメラの露出モードをシャッター速度優先にしておけば、このような撮影は楽に行える。マニュアル露出という手段もなくはないが、これは相当な訓練を要するのでお勧めではない。というのも、ヘリは客席の左手から現れて、右手の富士山の方向へと向かうため、露出値が刻々と変動する。さらに高度も頻繁に変えるため、背景が空から山、黒い地表へと急速に移ったりする。その都度露出設定を修整している暇など到底ない。

 動き回る被写体を撮影する場合、やはりカメラのフォーカスモードはコンティニュアス(動体追尾)モードにするのが便利だ。基本的なアプローチは野鳥を撮影する場合と何ら変わらない。しかもターゲットのサイズが鳥とは比べ物にならないくらい巨大であり、動きも予測しやすい。航空機の場合、ピント位置はコックピットに持ってくるのがセオリーだ。これも動物を撮る時に顔や目にピントを持ってくるのと同じ理屈だ。

※初出時に、手ブレ補正機能についての記述がありましたが、認識に誤りがあったため削除しました。おわびして訂正いたします。(8/21 17:00)

 各種車両や偵察バイクの走行シーンでは流し撮りを用いることで写真に動きが出る。バイクはスピードがあるので、ピントさえ合えばそれほど難しくない。一方で戦車や自走砲は速度があまり速くないため、これが意外に難しい。かなりのスローシャッターを切らないときれいに背景が流れてくれないのだ。写真の203ミリ自走榴弾砲は、シャッタースピード1/40秒、焦点距離180ミリで撮影した。忘れてはならないのが、望遠域でスローシャッターを用いることになる点だ。当然成功率は下がるので、手ブレ補正機能をフル活用しても、それなりの回数を切る必要がある。

富士総合火力演習・第1学校予行 スローシャッターによる203ミリ自走榴弾砲の流し撮り。F16、1/40秒、ISO160、カメラ:ニコンD4、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR
富士総合火力演習・第1学校予行 比較的容易な偵察バイクの流し撮り。F16、1/80秒、ISO200、カメラ:ニコン D810、レンズ:AF-S ED 500mm F4 DII

 ちなみに、東富士演習場の観客席は完全に吹きさらしで、屋根はない。晴天ならば猛烈に暑くなり、雨ならずぶ濡れになることもある。富士山の麓ということもあり、天気は変わりやすい。それ故、しっかりとした対策はしていかねばならないし、撮影結果はお天道様次第という側面も大きい。その点においても、自然写真のフィールドワークと大した差はないなと感じた総火演での1日だった。

【お知らせ】「デジタルカメラ 超・動物撮影術」を上梓

デジタルカメラ 超・動物撮影術 「デジタルカメラ 超・動物撮影術」

 先日アストロアーツから「デジタルカメラ 超・動物撮影術」というムック本が発売となった。ペットから野生動物まで、さまざまな動物の撮り方を解説した本となっており、私もアフリカでの作例を用いて、いろいろなシチュエーションでの撮影方法や、機材に関するページを担当している。動物写真に興味をお持ちの方に是非ご覧いただきたい。


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