荻窪圭が聞く ナノレベルの技術から生まれる“ZUIKO(ズイコー)”レンズの秘密(1/2 ページ)

オリンパスのM.ZUIKOレンズのラインアップは、その写りの良さから非常に高い人気を誇る。では何がそんなにいいのか。実際にレンズ開発に携わる人にその技術を聞いた。

» 2015年12月01日 10時00分 公開
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M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROを装着したOM-D E-M1

 オリンパスのマイクロフォーサーズ一眼、特に「OM-D」シリーズは、玄人筋に人気が高い。わたしが知る限り、カメラ雑誌での評価も高い。なぜか。理由はいくつもあるが、大きいのは「よいレンズがそろっているから」だ。

 いくらカメラがよくても、カメラの性能をきっちり引き出してくれるレンズがないと、あるいは自分の目的に合ったレンズがないと、積極的に使おうとは思わない。カメラの性能を引き出すレンズがあり、なおかつそれがコンパクトだと、持ち出す機会は必然的に増えるのだ。

 個人的に、M.ZUIKOレンズを積極的に使うきっかけになったのが、ハイエンドレンズ群のPROシリーズだ。

 PROレンズとして最初に出た「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」がよかった。わたし自身、このレンズがなければOM-Dをメインカメラにしていなかったかもしれない。

 このレンズの良さは、ディテールまでピシッと捉えてくれる部分だ。周辺部まで画質が落ちないのである。初めてこのレンズを使ったとき「ああ、いいレンズを使えばマイクロフォーサーズもこんなにディテールまでしっかり描写してくれるんだ」と感動したのを覚えている。

 でもレンズの良し悪しってカタログでは分かりづらい。誰でも分かるのは焦点距離やF値といったスペックや、デザインと価格くらい。そしていいレンズは価格もそれなりに高いので買うのに思い切りがいる。

 そこで、いったいオリンパスのレンズは何が違うのか、オリンパスの開発陣に話を聞いてきた。

 ポイントは、大きく以下の2点に集約される。

  • 長年のノウハウがつまったレンズ設計
  • ナノレベルの面粗さを実現した加工技術

では、1つずつひも解いていこう。

レンズは設計と加工技術の集積

ナノレベルの加工精度で作られたレンズ群。右の2枚は発売予定の300mm F4のもの

 レンズ開発の基本的な話からすると、まず開発するレンズを決めたら、それを実現するための設計が行われる。カメラのレンズは何枚ものレンズ群が組み合わさってできているわけで、どういうレンズをどう組み合わせるかを設計するわけだ。ズームレンズとなると、どの焦点距離でもクオリティを出せるよう、より複雑になる。

宮田正人課長 技術開発部門 光学システム開発本部 光学システム開発3部 1グループ グループリーダーの宮田正人課長

 設計を担当するオリンパスの技術開発部門 光学システム開発本部 光学システム開発3部 1グループのグループリーダーを務める宮田正人課長によると「レンズ設計には、高い光学設計力はもちろんのこと、長い年月に培ったノウハウや経験が重要なんです」という。

 もちろん設計はコンピュータで行うとはいえ、どういう設計値であれば、どういう写りになるかという長年のノウハウがあるので、設計メンバーは全員が古いレンズから最新レンズまでの設計データすべてに目を通す。

 それを加工技術部が受け取り、レンズを作るのである。

関博之部長代理 製造部門 製造技術本部 加工技術部 レンズ技術グループのグループリーダーの関博之部長代理

 加工を担う、製造部門 製造技術本部 加工技術部 レンズ技術グループのグループリーダーの関博之部長代理いわく「我々がそれを受け取って実際にレンズを作るのですが、計算上はそこまで必要ないでしょう、というレベルにまで仕上げるようにしています。将来どんどん画素数が上がっても対応できるように、図面の精度ギリギリではなく、設計値以上に良いものを作るように。かつてはそんな無理をいわれても、という要求もあったが、最近はきっちり対応できるようになってきました」。

 そのときに重要なのがレンズ加工の精度だ。

 レンズは光を集めてイメージセンサーに送るという大事な仕事を行うのだが、必要な光を必要な画素にきちっと渡さなきゃいけない。少しでも荒れていると光の一部が隣の画素に入ってしまったり、余計な光を取り込んでしまってゴーストやフレアになってしまったりする。そうすると画質が落ちる。

 画質低下の原因の1つが、ガラス表面の細かな凹凸だ。

ナノレベルの「面粗さ」が実現する高画質

 レンズの表面にある細かな凹凸を「面粗さ」というのだが、それが粗いと画質に影響する。ほんのわずかな凹凸によって、そこでまっすぐ入るべき光の角度がずれてしまったり、散乱を起こしたりしてしまう。

 そして本来届くべき画素にきっちり光が届かなくて解像感が落ちたり(ディテールの描写力に直結する)、ゴーストやフレアになったりと悪影響を及ぼすのだ。

 特に構図に強い点光源があるとやっかいだ。強い光はちょっと散乱するだけで他の画素に悪影響を与えてしまうからだ。

 「そうならないよう、レンズ表面の『面粗さ』が重要なのです」と関氏はいう。

 「面粗さ」とはあまり聞かない言葉だが、読んで字のごとく、「表面の粗さ」のことだ。レンズ表面は滑らかであればあるほどいい。わずか、目に見えない凹凸が光を乱すのだ。

面粗さが小さいレンズ面粗さが大きいレンズ 面粗さが小さいレンズ(左)と面粗さが大きいレンズ(右)。表面の凹凸にナノメートルクラスの差がある
面粗さが小さいレンズ面粗さが小さいレンズ 面粗さが大きいと、それだけフレアも大きくなってしまう

 そうならないよう、加工技術が大事なのである。オリンパスのレンズはその粗さがナノメートル(0.000001ミリ)単位という高い精度で作られているというのだ。

 ナノメートルといわれても、正直人間の目には分からず、表面をなでてもまったく差は分からないレベルだ。何しろ分子レベルの凹凸の話なのだ。

 分かりやすくいえば、レンズが直径3キロくらいの大きさだとすると、その上に落ちている髪の毛1本レベルらしい。スケールが大きすぎてスゴいということしか分からないのだが、なにしろ光を受け取るイメージセンサーは17.3×13ミリという小さな面積の中に1600万個もの画素が並んでおり、その1つ1つにきちんと光を届けねばならないことを想像すればいい。

 特にマイクロフォーサーズはフルサイズやAPS-Cに比べてイメージセンサーがコンパクトなので、その分高い精度が必要とされるのだ。

 相手はガラスである。しかもガラスといっても、レンズの材料になる硝材は400種類くらいあり、それぞれ屈折率や硬さなどの特性が異なる。非常に硬い「高屈折率・低分散ガラス」から、水に浸けておくと表面成分が溶け出すEDガラス、スーパーEDガラスといわれる「特殊低分散ガラス」まであり、それぞれどう磨くとどう仕上がるかがまったく違うのだという。研磨は、磨く側も磨かれる側(レンズ側)も、研磨の過程において変形していくので、そこまで見越した加工をしなきゃいけない。

光学ガラスの種類 レンズの元になる光学ガラスの種類は、屈折率とアッベ数(色分散)の違いだけで400種類以上もある

 「研磨レンズのつるつる度合いはその辺に存在しないレベルに達してます」(関氏)。

 そういうレベルの加工は、昔は量産製品でも、熟練した職人でないと作れなかった。でも今は、機械でできるようになっており、職人技は量産ではないスペシャル品の加工、例えば測定器用のレンズの加工など、より高い精度が求められるものに発揮されているという。

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提供:オリンパス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia デジカメプラス編集部/掲載内容有効期限:2015年12月14日