ロウソク1本の光で撮れる開放F0.95の世界――コシナ「NOKTON 42.5mm F0.95」:交換レンズ百景
暗所に強い「夜」のレンズ、コシナ「ノクトン F0.95」シリーズの第3弾が登場。現行レンズで最も明るい開放値を使うと、どんな写真が撮れるのか、さっそく試してみよう。
かすかな光さえあれば手持ちでブラさず撮影できる
レンズの開放値は明るければ明るいほど良い……そんなことはない。明るいレンズには、大きなボケを表現できるメリットがあるが、それと引き替えに失うものが少なくないからだ。明るいほど口径は大きく、重量は重くなり、持ち運びの負担が増加する。被写界深度が浅いため、ピンぼけのミスが多発する。しかも、明るいほど高価な傾向があり、財布に与えるダメージは計り知れない。肉体的にも精神的にも金銭的にも良いことは何もないのだ。
そう自分に言い聞かせている人ほど、実は、明るいレンズが気になって気になって仕方がないはず。最近のデジカメは高感度性能に優れるので、昔とは違って明るいレンズを使う意味は薄れているとか、大口径レンズの重さがネックになって持ち出す機会が減れば、結果的にシャッターチャンスを逃してしまう、といったことを言えば言うほどむなしくなる。趣味の世界に、正当な理由や理性的な判断など必要ない。さあ、勇気を出して本心を言ってしまおう。明るいレンズが大好きだと。
そんな大口径至上主義者の物欲を刺激するレンズがまたひとつ登場した。フォクトレンダーブランドのマイクロフォーサーズ用レンズ「NOKTON(ノクトン) 42.5mm F0.95」だ。発売はコシナ。同社の「ノクトン F0.95」シリーズとしては、標準レンズ「NOKTON 25mm F0.95」、広角レンズ「NOKTON 17.5mm F0.95」に続く第3弾である。
最大の特長は、製品名にある通り、F0.95という開放値の格別な明るさだ。一般的に明るいと言われるF1.4のレンズに比べた場合、絞り段数で1段強、センサーに届く光量では2倍強ほど明るいことになる。
焦点距離は42.5ミリで、35ミリ換算値は85ミリ相当。昔ながらの単焦点中望遠レンズの感覚で使用できる。
いつもとは違った写真が撮りたい人にお勧め
外装は高品位な金属製で、重量は571グラム。ボディ側が小さくて軽すぎると、フロントヘビーになってバランスが悪くなるので、オプションのグリップを付けたオリンパス「OM-D E-M5」やパナソニック「DMC-GH3」など、ある程度の重さがあるボディと組み合わせるのが使いやすい。
ピント合わせは、これまでの同社製品と同じくマニュアルフォーカス専用となる。フォーカスリングにはねっとりした感触があり、操作感は心地よい。絞り値についても、リング回転によってスムーズな調整が可能だ。絞りリングには半段刻みのクリック感があるが、動画撮影用にクリック音なしの操作感にも変更できる。
最短撮影距離は0.23メートルで、最大撮影倍率は1:4に対応。簡易マクロ的な使い方が可能だ。注意したいのは、マウント部に電子接点がないため、画像のExifにレンズ名や絞り値が記録されないこと。またボディ内手ブレ補正を使う場合は、焦点距離を手動で入力する必要がある。
写りは、開放値での、ふんわりとしたボケ表現が本レンズの持ち味になっている。球面収差がほどよく残されているので、アウトフォーカス部分にはハロやフレアと呼ばれるにじみが生じ、特に近接撮影では少々かすみがかったような独特の表現となる。ソフトフォーカスレンズで撮ったような、にじみの中にも芯のある描写だ。絞り込むごとに、にじみは解消され、F2まで絞るとかなりシャープになる。
点光源のボケについては、開放値では口径食の影響によって、周辺になるほどレモン形になる。真ん丸の玉ボケにこだわる人には向かないが、これはこれで作画に生かせるだろう。そして1段絞ると、点光源は10角形のボケに変化する。
近ごろのレンズはシャープな解像を重視する傾向があるが、そんな中、本レンズの柔らかい描写は個性が際立っている。絞り値に応じて、さまざまな写りが味わえる点もマニアックで楽しい。
独特のボケを生かしてポートレートを撮ったり、圧倒的な明るさを利用して薄暗いシーンをスナップする用途に打って付け。これまでの感覚では写真を撮ろうとは思わないような暗所でも、ほんのわずかな光さえあればいい。マッチ1本でもロウソク1本でも、過度に感度を高めることなく、手持ちで十分に撮影可能なシャッター速度が得られる。そこが本レンズのいちばんの面白さだ。
マニュアルフォーカス専用であることや、ずっしりとした重量を考慮すると、誰でも彼でもにはお勧めできない。だが、自分の写真にマンネリを感じたり、他人とは違った作風を得たいなら、ぜひとも使ってみたい。明るいことは、それだけで正義であることを実感するレンズだ。
(編注:本記事では一般的な撮影状態での利用を念頭としているため、人物撮影にレフ版などは利用しておりません)
(モデル:石川彩夏 オスカープロモーション)
関連記事
- マイクロフォーサーズ用「NOKTON 42.5mm F0.95」 発売日決定
コシナはフォクトレンダーブランドのマイクロフォーサーズ規格に対応した交換レンズ「NOKTON 42.5mm F0.95」の発売日を8月23日と発表した。 - コシナ、マイクロフォーサーズ規格に賛同
コシナがマイクロフォーサーズ規格に賛同。F0.95と明るい単焦点レンズを発売する。 - 交換レンズ百景:アートフィルターと相性抜群、いい味出してる“ボディーキャップ” オリンパス「BCL-1580」
わずか9ミリと薄く、そして安価。なんとも面白いレンズがオリンパスの“ボディーキャップレンズ”「BCL-1580」。「PEN」などに組み合わせて、アートフィルターを楽しむのに最適だ。 - 交換レンズ百景:行楽に最適な軽量万能10倍ズーム――パナソニック「LUMIX G VARIO 14-140mm/F3.5-5.6 ASPH./POWER O.I.S.」
行楽へカメラを持っていく時に悩むのがレンズの選択。単焦点1本も潔いが、高倍率ズームの利便性も捨てがたい。10倍ズームながら265グラムを実現したパナソニック「LUMIX G VARIO 14-140mm/F3.5-5.6 ASPH./POWER O.I.S.」を試用した。 - 交換レンズ百景:ミラーレスの軽快さを生かす万能レンズ――シグマ「30mm F2.8 DN」
シグマ「30mm F2.8 DN」(マイクロフォーサーズ用)を試用した。60ミリ相当の焦点距離は料理から友人家族のポートレート、スナップなど幅広く活用でき、レンズの軽さはミラーレスの軽快さをより生かしてくれる。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.