アフリカで使う車の話:山形豪・自然写真撮影紀
アフリカのフィールドで撮影するには、当然車が必要となる。では、一体どんな車種に乗り、どのように使っているのか?今回はそんなクルマの話
「広大なサバンナの中で男は1人、動物の姿を追い求め車を走らせていた」
なんて書くと、さもソフトトップのジープか、フル装備のランドクルーザーで大地を疾走しているようなイメージが浮かんでくる。しかし、私のようなボンビー写真家の現実は、そんなにかっこ良くない。ほとんどの場合、どれだけ安い車で、どれくらいフィールドの奥まで踏み込めるかという次元でやりくりしているのだ。
では、実際どんな車に乗っているのかというと、最も多用するのは普通乗用車(セダン)のレンタカーだ。渡航前にネット予約をしておき、現地到着時に空港でピックアップする。流石に軽自動車では心もとないので、レンタル料が安い割にそれなりの荷物が積めて、航続距離が長く、長時間の運転でも疲れず、車からの撮影がしやすい(そこそこ窓が大きい)という条件に当てはまる車を選んでいる。
今まで乗ってきた中で、最も気に入っているのはフォルクスワーゲンのセダンだ。トヨタや日産も悪くはないが、日本車は海外仕様のものでも、ドイツ車と比べてサスペンションが柔らかくて困る。例えば、トヨタ・カローラとフォルクスワーゲン・ポロを比べると、車高は大して変わらないのに、ダートを走る際、カローラではしょっちゅうハラをする。ちなみに、レンタカーは車種指定まではできないため、望み通りの車が借りられるとは限らないが、SUVに無償アップグレードされたりなんてこともまれにある。
昨年7月から10月まで行った撮影では、首尾よくフォルクスワーゲンのポロ(VW Polo Vivo 1.3)を借りられた。ガソリン車で燃費はリッター17キロ、3カ月間で約1万7千キロを走った。その間、パンクが4回発生し、返却期日の3日前に、前方を走っていたダンプカーから石が降ってきてフロントガラスが割れたが、それ以外は目立ったトラブルもなく、至って快適に撮影をこなすことができた。
撮影地たる国立公園や動物保護区内の道は、当然ながら大半が未舗装だ。また、ナミビアのような国では、地図に記載されている幹線道路すらダートロードが大半を占める。アフリカの未舗装道路を走るには、それなりの慣れと注意が必要で、日本や北米、ヨーロッパでのドライビングとはだいぶ勝手が違う。
その経験と知識をまったく持ち合わせていなかった十数年前、初めて行ったナミビアで、私は車を1台おシャカに(廃車に)している。この事故の一部始終は、私のウェブサイト内の「フィールド雑記」というページに書いてあるが、要は未経験の砂漠で、スピードを出し過ぎてスピンした挙げ句に車をひっくり返したのだ。幸い自分はかすり傷程度で済んだので、こうして笑い話にもできているが、後始末が大変だったことも含めて実によい勉強になった。
あれからそれなりの経験を積み、現地の事情にも明るくなったし、車もパワステやABS、エアバッグなどが当たり前になったので、安全面はかなり改善されたと言える。何しろ当時南アフリカの安いレンタカーには、ABSはおろか、パワステやエアコンさえついていなかったのだから。
とはいえ油断は禁物で、注意を怠れば死に至るし、道具にしても、普通の旅行では到底使わないものが必要となる。まず、車には必ず空気圧を計るタイヤゲージ、パンク修理キット、タイヤ用コンプレッサー、牽引(けんいん)ロープ、シャベルを積んでいる。砂地を走る際にはタイヤ空気圧を下げねばならないので、ゲージは必要不可欠なアイテムだ。またコンプレッサーも、一度下げた空気圧を、路面が変われば再び上げなければならないので、ないと困る。
しかし、どうあがいても、しょせんセダンは車高が低く、トルクのない、タイヤも小さい車なので、スタックも珍しくない。まあ、砂に埋まっただけならシャベルで掘り出したり、タイヤの下に木の枝や石などの硬いものを突っ込めば、大抵どうにかなる。一番厄介なのは泥で、これは一度ハマると、自力でのリカバリーが非常に難しく、誰かが来て引っ張り出してくれるまで待つしかない。人の少ない地域では、誰かが通りかかるまで数日を要する可能性もあるので、持久戦に備えて、水と食料は絶やさないように気を付けている。
このように、フィールドでは普通乗用車の限界にいつも挑戦しているわけだが、絶対に四輪駆動車でしか行けない場所もアフリカには多々ある(というかそちらの方が多い)。魅力的な撮影地や、珍しい動物の生息地は基本的に辺地なのだ。従って、金のかかる四駆を使って撮影に臨む場合もあるのだが、これについてはまた別の機会に書いてみようと思う。
著者プロフィール
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
【お知らせ】山形氏の著作として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが好評発売中です。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
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