B級とは侮れない中国製レンズの深みと味わい――中一光学「CREATOR 35mm f2.0」:交換レンズ百景
メイド・イン・チャイナの製品といえば「安かろう悪かろう」と考えがちだが、中には掘り出し物といえるような良品もある。そんなレンズの1つ、中一光学「CREATOR 35mm f2.0」を紹介しよう。
開放ではソフトで絞り込むとシャープな写り
中国瀋陽にある「中一光学(ZY Optics)」をご存じだろうか。もともとは日中の合資会社としてスタートし、日本の三竹光学のレンズ「MITAKON」などをOEM生産していたが、近年は自社ブランドでレンズやマウントアダプターの製造販売を手掛けているメーカーだ。
開放値が明るいミラーレス用のMFレンズ“SPEEDMASTER”シリーズや“FREEWALKER”シリーズの名前を聞いたことがある人もいるだろう。今回取り上げるのは、そうした大口径の少々お高いレンズではなく、F値を抑えることで普及価格帯を実現した「CREATOR」シリーズの広角レンズ「CREATOR 35mm f2.0」だ。発売は2014年。日本では焦点工房が販売しており、2万1800円(税込)で購入できる。
まずは基本スペックを確認しよう。本製品はフルサイズに対応した一眼レフ用レンズであり、焦点距離は35ミリで開放値はF2。ピント合わせはマニュアルで、露出制御は実絞り式だ。マウントはニコンFマウント、キヤノンEFマウント、ソニーAマウント、ペンタックスKマウントの4種類が用意されている。
外形寸法は、マウント部を除いた全長が65ミリで、最大径は68ミリ。フィルター径は55ミリ。鏡胴の重量は約310グラム。今回使ったEFマウントの場合、レンズ全体の重量は実測値で398グラムだった。サイズのわりには重く、手に取るとほどよい重量感が伝わってくる。
写りは、開放値ではソフトな描写で、特に周辺は甘さが目立つ。絞り込むほどに解像感は徐々に高くなり、中央部はF4まで、周辺部はF11まで絞るとくっきりとした描写になる。歪曲はやや樽型。開放値での周辺減光は結構目立つ。ただ、歪曲や減光は後処理で簡単に補正できるので、気になる場合はRAW現像時に最適化すればいいだろう。
最初の写真は、被写体がシルエットになるよう逆光気味のカメラアングルを選択したもの。鳥とスカイサイクルが雲に重なるタイミングでシャッターを切った。解像を重視するなら少し絞り込んだほうがいいシーンだったが、ここでは周辺減光を効果として生かすため、あえて絞りは開放値にセットした。四隅が暗くなったことで、平たんな構図に深みが出た。
次も同じく、開放値による周辺減光を作画に利用したもの。風車のまわりを草木で囲むフレーム構図を選択しつつ、そのフレームを周辺減光でさらに強調することで、画面に奥行きを与えている。ヨーロッパの田園風景をほうふつとさせる茨城での1コマだ。
周辺減光の効果だけでなく、そもそもF2という開放値は、暗所での撮影時に重宝する。下は、サメやエイがバランスよく並んだ瞬間を狙ったもの。被写体ブレが抑えられ、まるではく製のように静止して写っている。
開放値だけでは性能が分かりにくいので、絞り込んだカットも見てみよう。次の写真ではF11まで絞り込み、手前の庭園から奥の建物までをシャープに再現した。一歩引いた位置にカメラを構えることで画面上に藤棚のシルエットを写し込み、モダンな雰囲気が漂う洋風建築の存在感を際立たせている。
撮影時の留意点は、本レンズは実絞り式のため、絞り込むと光学ファインダーの像が暗くなること。フレーミングや正確なピント合わせが困難なときは、ライブビューを積極的に利用するのがいいだろう。また、電子接点のない完全マニュアルレンズであり、絞り値やレンズ名などはExifに記録されない。このあたりは割り切りが必要だ。
硬質でひんやりした触感の金属鏡胴
外装の素材は、鏡胴部とマウント部がともに金属製。高級というほどではないが、かといってチープな印象はなく、金属特有の硬質でひんやりした触感が心地いい。
フォーカスリングには縦目のローレットが刻まれ、ねっとりと動く感触は悪くない。フォーカスリングの回転角は約180度と大きめ。スピーディな操作には向かないが、厳密なフォーカシングには都合がいい。また鏡胴には被写界深度目盛りが刻まれているので、絞り込んでパンフォーカスで撮る、という使い方も可能だ。
絞りリングについては、1絞り分の回転が等間隔でない点にやや戸惑った。1段刻みでクリック感があり、動き自体はスムーズだ。絞り羽根は9枚。レンズ構成は5群7枚となる。
最短の撮影距離は25センチで、最大撮影倍率は0.23倍となる。35ミリレンズではまずまず寄れるほうだ。次の写真は、50センチ程度の距離で捉えたハスの花。F8まで絞り込み、ディテールまでをリアルに表現した。
APS-Cフォーマットのカメラに装着した場合は、焦点距離は56ミリ相当(キヤノン機の場合)になり、35ミリ換算での撮影倍率はさらに高くなる。具体的には、幅10センチの被写体を画面のほぼ横いっぱいに捉えることが可能になる。次の3枚は、APS-Cサイズ機の「EOS 70D」で写したもの。ちょっとした接写が楽しめる。
次も同じくEOS 70Dを使用。ホワイトバランスを白熱電球に設定して全体を青っぽい色調でまとめつつ、外部ストロボを上から当てて花びらを明るく照らしている。花が発光しているような幻想的な雰囲気が生まれた。
今回の試用では、マニュアルによる滑らかなピント合わせと、リング回転による直感的な絞り調整をじっくりと楽しむことができた。画質は、より高価な他社の単焦点レンズには及ばないが、特徴を知って使いこなせば十分に実用的といっていい。緩い描写とアナログの操作感はハマると結構クセになる。そんなレンズである。
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