京セラ「CONTAX SL300R T*」は、2003年12月の発売だ。僕が購入したのは翌2004年の春。ちょっと間が空いたのには理由がある。このカメラ、「CONTAX」ブランドなのに、すでに発売されていた「Finecam SL300R」という普及機とまったくスペックが変わらないカメラだったからである。
「カールツァイスレンズ」を標ぼうしているのだから、レンズコーティングぐらいは高度な処理をしているのだろうが、CCDがその頃評価の低かった1/2.7インチ極小画素CCDである。こんな割高なもの誰が買うんだとくさしながらも、「ん、もうー、しょうがないな」と最終的には手に入れてしまう。これがマニアの心意気というものだ。
フィルムカメラ時代は独特の高級感と存在感を誇示していたCONTAXも、デジタルへの急激な転換にはかなり苦戦を強いられていたようだ。デジタル関連の経験がある技術者がいるいないで、出来上がってくる製品は雲泥の差が出てしまう。それでもCONTAXは、一眼レフでは、レンズマウントを一新してまで35ミリフルサイズのデジタル一眼を投入するほど力を入れていた。
しかし結局、京セラは僕がSL300R T*を買った翌年、2005年にカメラ事業から撤退する。それほど事態は深刻だったということだ。このSL300Rにしろ、映像エンジンは「RTUNE」という海外製のものだ。もうこのクラスの映像エンジンを開発する余裕がなかったのだろう。
「RTUNE」は日本人がこだわる高画質ではなく、むしろ高速処理に定評のあるエンジンである。毎秒3.5コマで、メモリーカードいっぱいまで撮り続けることのできるカメラはそれなりに評価できるが、説明書にある「ベストな写真は、連写して選ぶ!」という主張は、写真はじっくり撮ろう、それが大人だと言い続けてきたCONTAXにはなじまないような気がした。
それでも僕はこのカメラを重宝して使った。薄いし、軽いし、317万画素しかないけれども、何よりカッコいい。唯一の弱点はバッテリーがもたないこと。RTUNEは発熱が激しく、仕様上では100枚撮影可能だが、体感ではその6割ほどだった。でもそれも、サブのバッテリーを持てばいいだけの話なのである。
面白いのは、このSL300R T*にフィルターアダプターが同梱されているということ。デジタルの時代になって、後処理が可能になると、フィルターの出番は十分の一ぐらいに減ってしまった。色やソフトフォーカスなどはどうにでもなる。
ここであえてフィルターアダプターを用意した意味を考えて、僕はPLフィルターとワイコンだと理解した。PLの効果は、画像処理ソフトでも再現できない部分がある。さらにワイドコンバーターは簡単に表現の領域を広げる手段だ。
28ミリ径のワイコンを探していたら、ニコンの900型番用の「WC-E24」という製品が安く放出されていたので手に入れた。倍率0.66倍で本来38ミリの狭い画角が25ミリまで広がる。さすがに純正ではないから画像周辺では画質が落ちたり、流れたりする。これにPLフィルターを加えると四隅にわずかにケラレも出る。しかし、それを許容して写真をつくるのがまたひとつの醍醐味なのである。
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