1998年に発売された、ニコン初のメガピクセルデジカメ「COOLPIX 900」は、それまでのカメラの常識を覆す「スイバル式」だった。フィルムの収納場所から解放されたデジカメは、機能性のみを考えてデザインするとこのようなカタチに落ち着くのだろう。
レンズ部分が回転することによって撮影の自由度が増し、さらにレンズをボディと平行にすれば、出っ張りのない、携帯に便利な形状になる。実際、ボディは、かなり大きめであったにもかかわらず、薄型バッグにも収納できた。
しかし、である。僕はどうしてもこのカメラを好きになれなかった。頭では理解しているつもりでも、これがカメラに見えない。ちょっと安っぽい金属板を使い、直線を基調にデザインされたボディは、悪く言えばアルミの弁当箱のような姿だったのだ。
高級コンパクトフィルムカメラの高い質感に慣れていた僕は、無意識に、デジカメにも同じものを求めていたのかもしれない。定価が10万円を超えるデジカメには、それなりの存在感というものがあって良いだろう、と。
そして翌1999年、COOLPIX950(型式 E950)が発売された。総画素数が211万画素にあがったスイバルは、まったく別物といえる仕上がりのデジカメだった。
このデジカメは猛烈な勢いで売れた。おそらくこの後、300万画素クラスになって995まで続く9xxシリーズの中で最高のセールスを記録したはずだ。僕の周辺でも、「デジカメはすぐにでも欲しいが、自分の感性に合わないものは欲しくない」という考えの、センスの良い人たちがこぞって購入していた。実は写真のE950も「PC USER」の編集長から拝借したものである。
E950の成功の理由は、カメラとしての質感を意識して高めたことだ。それも自社のハイエンド一眼レフのデザインをモチーフとして。ボディのフロントマスクは、黒のマグネシウム。それを角がまったく無いように総曲面で仕上げてある。そして表面はかなり粗い梨地仕上げだ。これにより表面に指紋がつきにくく、光の反射が抑えられることから、品の良い高級感が全体を包むのである。最後の仕上げはグリップの赤いライン。ただの黒いレンガが「Nikon」を無言で主張するのだ。
実際にE950を握って構えてみると、ちょっと高ぶるものがある。作りの良さがその気にさせるというか、「このカメラとうまくやって行きたい」と思わせる魅力があるのだ。しかし、実用上のスペックがあまりに過去の物であれば、これは話にならない。この点でもE950は合格である。いや、むしろ現在の方が使いやすくなっている部分さえある。
まず、メモリカードの進化。発売当時のCF(コンパクトフラッシュ)は、かなりの出費を覚悟しても64Mバイト程度を手にするのがやっとだったが、今ではギガクラスのものが安価で手に入る。撮影枚数の縛りがなくなったと言って良い。
また、この時代のデジカメの弱点のひとつはバッテリーのもちが悪いことだったが、E950は単三形乾電池を利用するため、容量の増えた最新電池を使えば撮影可能枚数は飛躍的にのびる。独自形状のバッテリーを採用する現在のデジカメよりも、E950のような機種の方が今後も最新のバッテリーが供給され続けるのだ。
問題があるとすれば、現在とは異なる操作系とレスポンスの遅さだ。まだ発展途上なので十字キーが無く、液晶上の情報表示も最小限である。いきおい各々のボタンに複数の機能をもたせることになり、最初は戸惑うがこれだけは慣れるしか無い。
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