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EOS 6Dは何を狙いに生まれたか――キヤノンに聞く「フルサイズ」(前編)(1/2 ページ)

» 2012年12月17日 11時22分 公開
[野村シンヤ,ITmedia]
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 言わずとしれたカメラの老舗、キヤノンも今年に入り35ミリフルサイズのデジタル一眼レフを次々と市場に送り込んでカメラファンの注目を浴びているのはご存じのとおり。3月に「EOS 5D Mark III」を発売し、6月にはプロ仕様の「EOS-1D X」を投入。そして11月30日には「EOS 6D」を登場させた。

 2005年に戦略的な価格で大ヒットしたフルサイズ機「EOS 5D」が思い出されるような驚きの価格設定で登場した「EOS 6D」、代を重ねるごとに完成度を増す「EOS 5DMark III」など、フルサイズ製品の充実は目を離せないものがある。

 最新のEOS 6Dをメインに、EOS 5D Mark IIIをどのような意図で投入してきたのか。また豊富なラインナップの中でどういった違いがあるのかを、商品企画担当の阿部歩氏(キヤノンマーケティングジャパン カメラマーケティング部 チーフ)に伺った。

photo キヤノンマーケティングジャパン カメラマーケティング部 チーフ 阿部歩氏

徹底的な小型化を追求した「EOS 6D」

━━まずは最新のフルサイズ機である「EOS 6D」の企画意図から教えていただいてもよろしいでしょうか?

阿部氏:  キヤノンの35ミリフルサイズは2002年にプロ向けの「EOS-1Ds」から始まり、2005年にハイアマチュアの方にも向けた製品として「EOS 5D」を投入してきました。EOS 5Dについては、当時、フルサイズのセンサーを持ったカメラとしては比較的低価格で購入できたこともあり、大変な好評をいだたきました。そして2008年の「EOS 5D Mark II」、今年に入って「EOS 5D Mark III」とフルサイズをリードするメーカーとして、気持ちを引き締めながら取り組んでいます。

 フルサイズ機はお客様のさまざまな声を受け止め、EOS 5D Mark IIIでは高機能なAFやフルサイズとしては高速な連写性能も搭載しました。ただ、こうした高機能化を続けることで、ボディサイズの大型化も進みました。他社も含めてフルサイズカメラの選択肢が増えた中では「ちょっと重い」という声も聞くようになったのです。

photo 「EOS 6D」

 フィルムの頃からのカメラに慣れ親しんでいる方が、フィルムと同じ画角を扱える35ミリフルサイズを検討することは自然な流れかと思いますが、例えば「EOS 7」のようなフィルムカメラに比べるとフルサイズのデジタルカメラは重いです。そうした方からは「小型軽量なフルサイズ機」への要望が多く寄せられるようになっていました。また、「EOS 60D」や「EOS Kiss」シリーズのユーザーからも、フルサイズに興味はあるけれど、「大きさ」「重さ」が障壁に感じるという意見も頂いていました。

 あともうひとつ、EOS 6Dを企画した理由はお客様に応じた製品の提供です。キヤノンはレンズ交換式デジタルカメラとして、現在、EOS MからKiss、60D、7D、5D、1Dとエントリーの方々からプロの方まで満足いただける製品を展開しています。これらのラインアップは以前、スペック的に等間隔のイメージでしたが、7Dや5D Mark IIが出たころにはハイアマチュア機の高機能化・高スペック化が進んできました。

 こうした流れは、30Dから50Dに至るミドルクラスでも進みましたが、高機能化は軽快さの喪失にもつながりかねませんので、60Dは軽快さを重視した近い位置づけとしました。ただ、そうすると7Dが間にあるとはいえ、APS-Cの60Dからフルサイズの5D Mark IIIとの間が“広がって”しまったのです。キヤノンは写真を愛好するお客様に隙間のないラインアップを用意したいと考えていますので、モデルとモデルの間が“広がる”状況――、お客様が自分のスキル、レベルに見合うカメラがないと感じてしまう状況は避けねばならないのです。

 60Dと5D Mark IIIの間にもう1台という意図からすれば、7DのようなAPS-Cセンサー搭載機を用意するという選択肢もあったかとは思いますが、7Dは実勢価格こそ60Dと5D Mark IIIの中間となりますが、APS-Cの最高峰として設計したカメラなので、ややトガった仕様となっています。お話したように「小型軽量なフルサイズ」への需要があることも分かっていましたので、ここに6Dが企画されたのです。

 「大きい」「重い」への回答になるよう、サイズは気を使いました。実はAPS-C機の60Dと横幅、重さがほぼ同じなのです(幅はいずれも約144.5ミリ、CIPAガイドライン重量も双方約755グラム)。

photo

――本当に60Dと6Dは大きさ的に近いですね。

阿部氏: 幅はまったく一緒で、奥行は内蔵ストロボを搭載している分だけ60Dの方が厚みがあります。つまり、60DやKissシリーズをお持ちの方でも、大きさにあまり違和感を覚えることなくフルサイズが楽しめるようにとの意図を込めています。

 操作面に関しても60Dとほぼ同じインタフェースを採用しています。ほとんどのボタン類を右側に配置したデザインに表れています。例えば、7Dや5Dでは右上面のショルダーに(グリップ上部に)配置している人差し指で押すボタンには、1ボタンあたり2つの機能があります。一方で60Dでは、それをもう少しエントリーの方でも扱いやすいようにと1ボタン1機能で、割り当てなかった機能はすべて背面液晶のメニューから操作するのですが、その考え方は6Dにも踏襲されています。

 記録メディアもSDカードが使えるということもありますし、かんたん撮影ゾーンといった撮影機能も搭載しているということで、エントリークラスと比べても違和感のないカメラになっています。もちろん、ファインダーの「見えの良さ」などフルサイズカメラとしての性能も気にしながら作り上げました。6Dというカメラはフルサイズを気軽に選んでいただくために、必要なカメラだったのです。

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