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“いいノイズ”でありたいカメラ――「PowerShot N」の誕生と期待を聞く(1/2 ページ)

» 2013年03月01日 12時15分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 キヤノンが4月25日より販売開始するコンパクトデジカメ「PowerShot N」はいろいろな意味で、思い切りの良さが目立つ製品だ。「高画質」ではなく「新しい写真」を前面に出したコンセプトや左右対称でシャッターボタンのないデザイン、それに直販のみの販売形態と、ある意味コンサバな製品が目立つ、カメラの老舗である同社の製品としては異例の要素が多く詰まっている。

 デジタル写真の多くがスマートフォンで撮られる時代、コンパクトデジカメはどうやってその存在感を示していくか。その命題に同社がどのように挑んだか、なぜこの形に結実したのか。製品企画を担当した、キヤノンマーケティングジャパンの岩田裕二氏に話を聞いた。

photo 「PowerShot N」
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photophotophoto ユニークなのは形状だけではなく、1シャッターで6枚のさまざまな写真を出力する撮影機能「クリエイティブショット」もユニークだ

――スマートフォンへの対抗策としてコンパクトデジカメの方向性には「高倍率」「高級機」「タフネス」が示され、CP+での各社展示も大まかに言えばこの3方向に集約されていました。ですが、PowerShot Nの方向性はどれにも属さないと思います。まずはなぜ、PowerShot Nが生み出されるに至ったのか、その背景を教えてください。

岩田氏: わたしたちは常に製品開発や市場状況の調査を行っているのですが、スマートフォンの台頭、SNSの普及が大きな波となってきた時期から、ある意味、。コンパクトデジカメについては写真の概念が変わる可能性があると感じ始めていました。

 基本的にキヤノンとして写真とは、「目に映るものを高画質でとらえること」なのですが、スマートフォンの台頭やSNSの普及によって写真に対する意識の変化が顕著になってきていましたので、デジタル処理による大きな変化を写真に付与しても良いのではと考えたのが、これがPowerShot Nの製品化につながるきっかけです。もっと新しいもの、「いい意味でのノイズ」をもたらしたいと考えたのです。

 加えて言えば、スマートフォンとSNSに起因する意識変化だけが要因ではありません。タブレット端末の影響もあります。写真家がタブレット端末を使ってデジタル写真を眼前で見せるという使い方を見て、見せる方法・見る方法が多様化していることを痛感させられたからというのもあります。

――「いい意味でのノイズ」をもたらすための製品だとして、「新しい写真に出会う」というコンセプトと、非常にユニークな形状はどのように決定したのでしょうか。

岩田氏: Instagramになぜ多く人が引きつけられるのか?を議論している際、いい写真が撮れて、公開して他人から「いいね」と言われてほめられると、さらにいい写真が撮りたくなるという「センスアップサイクル」が存在していることに着目しました。

 ですが、「いい写真」を撮るのは難しいことです。そこで、誰もが簡単にセンスの良い、いい写真が写真が撮れるカメラというのがあれば、自分では気がつかなかった新しい写真表現に出会え、結果として写真を楽しむ人たちがもっと増えるに違いない、という思いからこのカメラのコンセプトは導き出されたのです。

 ご存じの通り、写真は「構図」「光」「色」で構成されます。そのうち、構図についてはシャッターボタンが従来の位置にあるだけでかなりの制約を受けてしまいます。そこで、「これまでの写真の撮り方に囚われない形」を目指した結果、PowerShot Nの左右対称デザインが作られました。

 このデザインによって、利き手なども関係なく様々な構図やアングルで、思いのままに撮影することを可能にできたと考えます。さらに、チルト式タッチパネルや、鏡筒周りのシャッターリング、ズームリングの操作系を搭載することで、ユーザーにこれまでとは違う、新たな撮影の楽しみを提供できると考えています。

 このデザインと操作性に至るまでには、通常製品よりも多くのデザイナーが、通常よりも長い時間をかけて幅広いアイデアを出しあいながら検討しました。その議論の中でまずはスクエアフォルムの案が生まれ、次に新しい操作(ズーム・レリーズ)のアイデア、そして最終的にシンメトリーデザイン案、、というように徐々に形作られていきました。1つ1つを丁寧に練り上げた結果が、今のデザインとなっています。

photo 開発段階のデザインラフ。この段階ではまだシャッターボタンが用意されている
photo 次段階のラフでは、「削ぎ落とし」を強く意図しシャッターボタンが廃止されボディ上面のタッチでシャッター操作を行うデザインとなっている
photo この段階になると、鏡胴ですべてを操作するというスタイルが提案されている
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