ドイツ・ケルンで2年に1度開催される、世界最大の写真関連見本市「photokina 2014」が今年も閉幕した。毎回、これを機に発表される意欲的な新製品も多く、今年も注目製品が数多く登場した。
photokina 2014の会場で、最も注目された企業の1つがパナソニックだろう。高級コンパクトの「LUMIX DMC-LX100」や「LUMIX DMC-GM5」はもちろん注目度の高い製品だが、中でも特に注目を集めたのは「LUMIX DMC-CM1」の存在だ。
CM1は、スマートフォンOSのAndroidを搭載し、4.7インチという大型の液晶モニタを搭載したカメラで、一見するとその姿はスマートフォン。しかし、スマートフォンのカメラとしては大型の、35ミリ換算で28ミリ F2.8の単焦点レンズを搭載。撮像素子には高級コンパクト並みの1インチセンサーを採用している。
通信機能では、LTE/3Gの携帯通信、無線LAN、Bluetoothといたスマートフォンにある機能を備えたほか、音声通話にも対応しており、カメラともスマートフォンとも言える製品だ。
過去にも、「カメラのような外観」の携帯電話はあったし、Samsungが「GALAXY Camera」といった高倍率ズームレンズ搭載スマートフォンも発売している。ポイントとしては、「1インチセンサー」「大口径の単焦点レンズ」「ヴィーナスエンジン」、そして、「パナソニックはカメラとして開発している」という点だ。
パナソニックには携帯電話やスマートフォンの開発を担うパナソニック モバイルコミュニケーションズ(PMC)があったが、同社のスマートフォン撤退にともなって、開発チームがLUMIXチームに移行。「同時期にPMCとLUMIXチームで開発していたAndroid搭載製品」が融合した結果、今回のCM1が登場したという。
「パナソニックがスマートフォンに再参入」といった言い方もできるかもしれないが、パナソニックに話を聞くと、「あくまでデジタルカメラ」という。
撮影した画像を素早くSNSなどに投稿するのに、通信機能、特に高速なLTE通信に対応していることが重要で、それを行うためには、Androidを採用するメリットがある。それにともない、チップセットとしてQualcommのSnapdragonを採用したが、画像処理に関しては、ハードウェアのヴィーナスエンジンを搭載している。これがポイントで、カメラはヴィーナスエンジンが、UIや基本的なOSの動作はSnapdragonが受け持つ、というデュアルチップ体制になっている。
Snapdragonとヴィーナスエンジンという2つのチップが受け持つ機能を切り分け、カメラが起動すると最優先でヴィーナスエンジンが動作し、その背後でもSnapdragonがOS動作を受け持つといった処理が難しかったそうだ。
このカメラの動作を従来通りヴィーナスエンジンが受け持つ点でも、やはりCM1は「カメラ」なのだろう。カメラは一見すると1つのアプリとして実装されているように見えるが、ヴィーナスエンジンが処理を担当しているため、「LUMIX風のカメラアプリ」ではない。「単にAndroidスマートフォンのレンズとセンサーを良くした」のではなく、ちゃんと「カメラ」なのだ。
Leica認定を受けた単焦点レンズで、しかもレンズ固定なので、1インチセンサーに最適化されて画質も良好のはず。少なくとも、プリントアウトされた作例や、ディスプレイに表示された撮影画像を見る限りは、「スマートフォンとして」というより、「デジカメとして」十分な画質を実現しているようだった。
1インチセンサーを搭載すると、当然レンズは大型化する。スマートフォンのようなデザインとサイズを実現するためには、レンズは単焦点しか選択しようがない。逆に、OSとしてAndroidを搭載したカメラとして開発するなら、カメラとして必要なサイズ感で高倍率ズームを搭載してもいいだろうが、今回はデザインやサイズをスマートフォンに近づけているため、やはり単焦点にならざるをえない。
その分、画質には期待できる。画角は、「テーブルの上の食事」を撮影することも想定した28ミリ。日本人は特に多いが、世界的にも食事をスマートフォンで撮影する人は多い。F2.8という明るさも、サイズとのバランスを考えるとちょうどいいだろう。
価格は欧州で899ユーロと、難しい値付け。高級コンパクトデジカメとしても高いし、スマートフォンとしても高い。パナソニック自身も数を求めてはいない、というより、爆発的に売れるとは考えていないようだが、こうした製品を、しかもパナソニックが開発したというのはやはり驚きだ。
photokinaでCM1が注目された理由は分かる。デジカメ業界では、通信とカメラの融合は1つのテーマだ。スマートフォンによってコンパクトデジカメ市場が大きく縮小し、SNSなど画像をインターネットに投稿するという文化が広まっている。それに応えるように、デジカメの画像をスマートフォンに送信するソリューションはいくつか出てきている。今までは、無線LANを使って転送しているが、設定が面倒だったり、送信が安定しないなどの問題もある。
その点、CM1はデジカメ自体にLTEや無線LANの通信機能を搭載。スマートフォンと同じやり方で画像を投稿できるデジカメとして、他のデジカメメーカーからも注目を集めている。やはり1/2.3インチといった小型センサーでもなく、小さなスマートフォン用レンズでもなく、ソフトウェア的な画像処理でもなく、「まず、デジカメである」という点が注目されているのだろう。
この「デジカメとスマートフォンの通信」ではほかにも興味深いソリューションがある。Samsungのミラーレスカメラ「NX1」は、一眼レフカメラのようなスタイルのレンズ交換式カメラで、カメラとしての機能も意欲的だが、無線LANとBluetoothを組み合わせた画像データの送信機能が面白い。
これは、Samsungのスマートウォッチ「GALAXY Gear」の技術を応用したものだろう。要は「いちいち接続するのが面倒なら、常時接続にしてしまう」という考え方で、カメラとスマートフォンをBluetoothで接続。低消費電力のため、常時接続し続けてもバッテリー消費は少なく、撮影時には、縮小画像をBluetoothでスマートフォンに自動的に送信する。いわゆるBLE(Bluetooth Low Energy)の機能を活用したものだ。
実は、NX1のスペック表には「Bluetooth 3.0」との表記がある。チップ自体はBLE対応ながら、BLEの仕様を満たす省電力化が難しかったため、らしい。そのため、使い方としてはBLEと同じやり方だが、BLEの基準より少し電力消費は多めのようだ。とはいえ、無線LANなどに比べれば省電力なのは間違いない。
Bluetoothの通信速度は遅いが、縮小画像ならすぐに送信できるため、いちいち転送作業を行わなくてもいい。撮影して、スマートフォンを取り出せば、もう画像が保存されているので、そのままSNSなどに投稿できる。元の大きな画像が必要な場合は、そこから選んで無線LANを使って転送すればいい。このあたりは、Samsungのスマートフォンチームとカメラチームが同じ事業部内に統合された点が生かされているのだろう。
米Relonch Cameraが開発中というiPhoneケース型デジカメも面白い。ケースに45ミリの単焦点レンズとセンサーを組み込み、カメラの操作や画像の保存にiPhoneを使うというアイデア商品で、UIをすべてiPhoneに任せて、カメラを外付けにしている。ソニーのレンズスタイルカメラ「QXシリーズ」と似た考え方だが、ケース型のため、iPhoneとはLigthning端子経由で接続され、安定した高速な画像転送ができる点はメリットだろう。
今回のphotokinaでは、「スマートフォンとの連携」は1つのテーマになっていた。まだまだ、新しい提案は少ないが、従来のカメラメーカーだけでなく、新興メーカーが現れる端緒になりそうだ。
カメラ業界に新風が巻き起こっている。2014年のphotokinaは、そんな印象だった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR