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フィールドにおけるストレージの問題山形豪・自然写真撮影紀

» 2015年05月26日 18時20分 公開
[山形豪ITmedia]

 私がデジタル機材で撮影を始めたのは2004年のことだ。当初はニコンD100とD2hの2台体制だった。デジタルカメラはまだまだ発展途上で、D100が600万画素、D2hに至っては400万画素しかなく、ダイナミックレンジの狭さやノイズの多さなど、画質面での問題も多かった。

 あれから10年少々が経過し、デジタル機材はすさまじいまでの進化を遂げた。今や画素数が5000万に到達してしまったモデルもあるほどだ。解像度以外にも、超高感度域での撮影が可能になるなど、性能の向上は著しく、表現の幅は確実に広がったと言える。写真家にとってこれはとても喜ばしいことだ。

Go Yamagata ニコンD2hで撮影したイワダヌキ(ロックハイラックス)。D2hはノイズが多すぎてISO400以上では使い物にならなかった。南アフリカ、オフラビス国立公園。F7.1、1/1000秒、ISO400、ニコン D2h、レンズ:AF-S VR Zoom-Nikkor ED 70-200mm F2.8G(IF)
Go Yamagata 夜間、スポットライトの明かりのみで撮影したリビヤネコ(ヤマネコの一種)。高感度でも非常に良好な画質だ。ボツワナ、マシャトゥ動物保護区。F5.6、1/60秒、F5.6、ISO5000、ニコンD800E、レンズ:AF-S 800mm f/5.6E FL ED VR

 しかし写真のデジタル化は、その黎明期から常にフィルムとは異なったリスクを内包してきた。それは写真が容易に消失しうるバイナリデータになった点だ。これだけは、カメラがどれだけ進化しても変わりようがない。しかも、保存せねばならないデータ量はカメラの高画素化と共に増加の一途を辿ってきた。

 カメラの進化に合わせて当然記録メディアも高速化、大容量化してきた。カメラの画素数が最高でも600万程度だった頃は、256Mバイトのコンパクトフラッシュがごく一般的で、レキサーの1Gバイトはかなり高価だったように記憶している。それが現在では、コンパクトカメラユーザーですら32Gバイトや64Gバイトのメモリーカードを使っている。4K動画の普及によって、単一ファイルのサイズも巨大になり、それに対応する形で512Gバイトの容量を持つものまで登場している状況だ。

 サンディスクやレキサーといった有名メーカーのものは、信頼性に関しても以前よりだいぶ向上したように思う。それでも、記録メディアの突然死は起きるし、カメラだって故障する。写真家にとって、撮影データの消失は悪夢以外の何物でもない。デジタルカメラの上位機種にメモリーカードスロットが2つ備わっているものが多いのも、データを失うリスクを軽減するという意味合いが大きい。しかし、数週間から数カ月の単位で取材に行く場合、メモリーカードに撮影データを入れっぱなしにしておくわけにもいかない。

 私の場合、フィールドでの撮影に際しては、極力その日撮った画像はその日のうちに外付けハードディスク2台に保存するようにしている。これははっきり言って非常に面倒くさい。一日クタクタになるまで撮影した後、キャンプに戻って真っ先にやらねばならないのは夕食の準備だ。そこからさらにPCを立ち上げて作業をするなど億劫でたまらない。本来なら食事が済んだらとっとと寝てしまいたいのだ。

 しかし、その一手間を惜しむことで痛い目を見るかもしれないという恐怖心は決して小さくない。長期間にわたり撮影データを1つのメモリーカードに入れっぱなしにしている人は意外に多い。これは極めて危険な行為であると老婆心ながら申し上げておく。記録メディアの容量が大きくなればなるほど、まだ余裕があるからと、画像を外部保存せずに放置してしまいがちになる。だが、事故は遅かれ早かれ起きる。

Go Yamagata 南アフリカ、カラハリ砂漠のキャンプで夕食後にその日撮影したデータをバックアップ。煩わしいが絶対に必要な作業だ

 実際に私の周りで、カメラや携帯に数カ月分の写真を、バックアップを取らずに入れたままにしていて、ある日突然それら全てを失った人々がいる。それも1人や2人ではない。Facebookにも、助けを求める悲鳴にも似た書き込みがちょくちょく投稿される。大切な子供の成長の記録や、せっかくの旅の思い出が一瞬で消え去るかもしれない。それがデジタル写真の恐ろしさだ。

 画像の外部保存にしても、結局はメモリーカードからHDDにデータを移すというだけの話なので、ここでさらにPCやストレージというデジタルデバイスが絡んでくる。これらもまた故障すればデータが消失したり保存ができなくなるので、バックアップが必要となる。

 フィールドにPCを2台持っていくのは、荷物が多くなりすぎるのでさすがに無理だ。そこで、PCがなくてもデータ保存ができるポータブルデータストレージを携行している。現在使用しているのは、Digital Foci製の「Picture Porter 35」という製品だ。これは各種メモリーカード対応のスロットがついたバッテリー駆動式のHDDで、単体でデータの保存ができる。容量は500Gバイト(現在では1Tバイトのものも出ているようだ)。

Go Yamagata Digital Fociの「Picture Porter 35」。容量は500Gバイトでバッテリー駆動式

 写真の保存のみならず、閲覧も可能な上、PCに接続すれば外付けハードディスクとしても機能する。バッテリーをワンタッチで交換できるため、スペアを持っていけば電源が確保できない環境でも比較的長時間使用できる優れものだ(数年前まで国内でもエプソンの「Photo Fine Player」や飛鳥の「Tripper」といったストレージデバイスが発売されていたが、需要があまりなかったのか、いずれも生産中止となってしまった)。

 デジタルの時代になって撮影可能枚数は増えたし、誰でも気軽に写真を撮れるようになったことは確かだ。しかし一方で、画像データの安全な保存という極めて重大な問題が発生し、現場にPCやHDD等の周辺機器を持っていく必要性に迫られるようになった。機材量は増え、手間もかかって煩わしいことしきりだが、多分大丈夫だろうという希望的観測にのっとってバックアップを怠ると、いつか絶対痛い目に遭うのがこの世の現実だ……。

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