富士フイルム「FUJIFILM X30」は、銀塩カメラ風のレトロデザインを採用した高級コンパクトデジカメだ。昨年発売した「FUJIFILM X20」の後継機にあたり、ファインダーを改良したほか、液晶のチルト可動化や大画面化、撮影機能の強化などを図っている。
まず注目したいのは、新しいフィルムシミュレーション「クラシッククローム」に初めて対応したモデルであること。フィルムシミュレーションとは、撮影する写真の発色傾向をフィルム交換の感覚で切り替えられる機能だ。これまでの製品では「PROVIA/スタンダード」や「Velvia/ビビッド」「ASTIA/ソフト」といった同社のリバーサルフィルムを思わせるモードや、「PRO Neg.Hi」や「PRO Neg.Std」といったネガフィルム風のモードを搭載していた。
新しいモードであるクラシッククロームは、落ち着きある色と階調で撮れる設定だ。発色はわずかに黄色っぽく、彩度は抑えめになる。トーンの再現性は、シャドウ部の黒をきっちりと締めながら、つぶれることなく、暗部から中間調までを階調豊かに表現できる。初期設定、つまり標準のフィルムシミュレーションであるPROVIA/スタンダードに比べると、少々地味な色であり、パッと見のインパクトは乏しい。だが、渋くて味わい深い雰囲気が出しやすい色といえる。
下の写真は、クラシッククロームで撮影した晴れた日の屋外風景だ。これまでのPROVIA/スタンダードを選んだ場合は、青空や樹木、ベージュの建物などがもっと濃く再現され、さらにVelvia/ビビッドを選ぶと強烈なくらい濃厚な色合いになるが、このクラシッククロームの場合は、色は控えめで、彩度の強調はほぼない。といってもPRO Neg.Stdほどあっさりした色ではなく、適度なコントラストを保ちつつ、低彩度ながら重厚感が漂う表現となる。
このように風景を渋めに再現する狙いだけでなく、そもそも鮮やかで色飽和が生じやすい被写体を撮るのにも適している。下の写真はクラシッククロームで捉えた植物のクローズアップだ。これまでのPROVIA/スタンダードやVeliva/ビビッドでは、薄いピンク色が実際以上に鮮やかに補正されがちだったが、クラシッククロームならピンク色の微妙なトーンを誇張なく表現できる。また緑の葉っぱの部分では、暗部から明部までの滑らかの階調と、つややかな質感描写が確認できる。
クラシッククロームは、その名称が示すように古い時代のカラーフィルムを連想させるような色合いだ。といっても、コダクロームやエクタクロームといったリバーサルフィルム風の色ではない。むしろカラーのネガフィルムを元にして紙焼きしたプリント、といった印象を受けた。
低彩度で高コントラストな表現という意味では、昔からある表現技法の1つ「銀残し」の雰囲気に近いともいえる。ただ「銀残し」と呼べるほど極端な色ではない。フィルター効果のようなエフェクト系の機能とは違って、ほどよい色と階調の調整なので、すぐに飽きることはなく、活用範囲は広いと思う。フィルムシミュレーションは撮影時だけでなく、カメラ内RAW現像の際にも切り替えられるので、気軽にクラシッククロームを試してみるといいだろう。
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