シグマ「DP」シリーズは、20.7×13.8ミリの大型CMOSセンサー「FOVEON X3」を搭載したコンパクトデジカメだ。最近は、マイクロフォーサーズやソニー「NEX」シリーズ、リコー「GXR+A12」、ライカ「X1」など小型軽量ボディに大型センサーを組み込んだデジカメが増えているが、DPシリーズはその先駆者的存在といってもいい。
しかもFOVEON X3は、単にセンサーサイズが大きいだけでなく、光の3原色であるRGBを3層構造でまとめて取り込むという独特の仕組みを採用。そこから生み出される高精細で立体的な描写は、画質にこだわるユーザーを引き付ける最大の魅力になっている。
これまでに発売または発表されたDPシリーズは5モデル。大きく分けて、35ミリ換算28ミリ相当の広角レンズを搭載した「DP1」の系列と、41ミリ相当の標準レンズを搭載した「DP2」の系列の2ラインがある。これらDPシリーズ開発の狙いをシグマの担当者に聞いてみよう。話をうかがったのはシグマ 経営企画室 広報課 課長 桑山輝明氏だ。
製品名 | 発売 | レンズの焦点距離 | 画像エンジン | 備考 |
---|---|---|---|---|
DP1 | 2008年3月 | 28ミリ相当 | TRUE | 生産終了 |
DP2 | 2009年4月 | 41ミリ相当 | TRUE II | 生産終了 |
DP1s | 2009年10月 | 28ミリ相当 | TRUE | DP1の後継機 |
DP2s | 2010年3月 | 41ミリ相当 | TRUE II | DP2の後継機 |
DP1x | 発売日未定 | 28ミリ相当 | TRUE II | |
――DPシリーズ開発のきっかけは?
桑山氏: デジタル一眼レフ「SD14」(2006年秋発売)の開発にめどが立ったころ、次のカメラの検討に入りました。一眼レフはいろいろな面で優れていますが、大きくてかさばるというデメリットがあります。撮る範囲をより広げるため、次はコンパクトで一眼レフの高画質を維持したまま簡単に持ち歩けるサイズのカメラを作ろう、というのが最初の発想です。
今でこそ、大型センサーを搭載した小さなカメラが各社から登場していますが、当時はありませんでした。当社の場合、フィルムカメラの時代には、一眼レフもコンパクトも開発していましたが、デジタル時代になってからはコンパクトデジカメの実績はなく、「DP1」が初めてのチャレンジでした。つまり、DP1の企画段階では、その後に立ちはだかる大きな壁の存在を知らなかったのです。
ともかくDP1の開発は、まずレンズの設計からスタートしました。どんなレンズにするか、初期のアイデアの段階では、広角、標準、ズーム、交換式などさまざまな検討がありました。しかし、仮にレンズ交換式の場合、そのマウント設計だけで長い時間がかってしまいます。またズームレンズの場合は、どうしても大型化します。そこで、携帯性や使い勝手などを総合的に判断し、35ミリ換算の焦点距離が28ミリ相当で、開放値F4というレンズに決定しました。
そして、レンズが完成し、内部の基板などを組み込み、徐々にカメラの形になってきました。残すは絵作りというレベルにまで、どうにかたどり着くことができました。
ところが、その段階での絵作りは、納得できるレベルに至りませんでした。SD14と同じセンサーを使いながら、SD14 で感じた空気感や立体感等が感じられなかったのです。当初は、レスポンス重視のコンパクトデジカメを目指そうとしたため、スピードと引き換えに画質がよくならなかったのです。このままでは市場には出せない……。一時は開発を続けるか止めるか、という危機的な状況にまで陥りました。
――DP1は2006年に発表したあと、実際の発売はかなり遅れて2008年になりました。その期間のことですね。
桑山氏: そうですね。その間、多くのお客様から問い合わせもいただきました。中にはお叱りの言葉もありましたが、DP1に期待していたからこそでしょう。何年でも待つので必ず出して欲しい、そんなありがたい声もありました。この様なお客様からの後押しもあり、開発を続けることができました。そして、これならばお客様が満足できるだろうという方法をどうにか見つけ、画像パイプラインを1から作り直すという決断をしました。そんな難産の末、2008年春にやっとDP1を発売することができたのです。
――しかし、実際に発売されたDP1は、サクサクとは動かず、画像の書き込みに時間がかかるカメラでしたね。1回撮影し、次の撮影までに7秒くらい待たされます。
桑山氏: はい。最終的には画質を優先し、レスポンスを抑えたからです。それでもなるべくスピードを上げるようにしたのですが、次の撮影までに少し待たなくてはいけませんね。DP1は、一般的なコンパクトカメラのように、シャッターを押せば簡単に及第点の写真が撮れるカメラはありません。時にはうまく撮れず、失敗写真になってしまうこともあるでしょう。しかし、きちんと撮影を行い条件がそろった時には期待以上の絵が得られます。三振をするか、逆転サヨナラホームランを打つか。安定してヒットは打てないが、当たると大きい(笑)。そんな愛すべきカメラだと思っています。
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